12・ガチ恋と炎上(前編)

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今のところ、二人それぞれの所属事務所から、この件についての公式発表はなし。 ――というのが、小一時間ほどインターネットを駆使し、得た情報だった。 結果俺は、これまでの人生で一番のダメージを心に受けていた。 なんでなんでどうして? 意味が分かるけど分からない。 侑弥くんが、侑弥くんも、炎上しちゃった! 見た目だけ清楚装った、どうせ中身は性悪クソビッチの、ちょっとだけ一般人より可愛いだけの女なんて、神が懇切丁寧に造りたもうた侑弥くんと釣りあってない! 釣りあうわけがない! あー…うー……侑弥くんまで熱愛報道で炎上とか、俺ってマジでそういう意味の疫病神だったりする? けど合コンってことは、ただの一夜の過ちかもしれないし? ザクロは泥酔していたらしいし。 このブスは侑弥くんにヤり捨てされただけの女で、恋人なんかじゃないって。 でもでも侑弥くん、こんな頭と性格悪そうな女なんかと寝ないでよ。 ヤダヤダヤダ! 侑弥くんは俺たちファンのものなのに!! 恋愛してしまうのは仕方ないかもしれないけど、週刊誌に報道されないよう上手くやってよ。お願いだから。 芸能界引退するまでは、結婚発表するまでは、俺たちファンに夢を見せ続けてよ。 『東海林侑弥』や『百日紅ザクロ』をSNS検索して、両方のファンの阿鼻叫喚を流し見る。 賛同できる意見にはイイねを、侑弥くんを過剰にディスる奴にはブロックを。 その作業を繰り返し、気づけばもう夕方になっていたので、洗濯物を取り込む。 まだ少し湿気っているが、部屋の中で一晩吊るしておけば乾くだろう。 カーテンを閉め、カーテンレールにハンガーを引っかけたあと台所へ行き、インスタントコーヒーを淹れた。 それを持ってリビングにあるソファーへ座り、疲労を感じる頭でぼんやり考える。 ――熱愛炎上したのに、推しへの気持ち、どうして冷めないんだろう……。 あぁそっか。今回は本当に普通に、俺が彼にマジ惚れしてるからか。 性別なんて全然関係なかったみたい。 もう色々ダメだな、俺。 熱いコーヒーをすすれば、その温かさに、炎上によって吸いとられてゼロになっていた気力と体力が、ほんの少しだけ回復した気がした。
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