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14・テキーラサンライズ
ゴシップ騒ぎなんてものは毎日、毎時間――全世界にまで範囲を広げれば、毎秒の勢いで大小様々な火の手があがっている。
だから推しが電話で俺に言った通り、東海林侑弥と百日紅ザクロの熱愛疑惑報道は、一ヶ月もたたないうちに、世間からはおおよそ忘れ去られた。
(侑弥くんたちが炎上した数日後、大物女優の不倫が報道されたので、そちらに世間の興味関心が移ったせいもある)
両方のファンの間でも、事務所が二人が交際してなさそうなコメントを出したおかげで、この騒動はかなり鎮火していた。
だから、とうとう誘われてしまった。
『今週か来週くらいに、お互いの休みがあう時にご飯行かない? というか、行こう!』
と、侑弥くんからLINEで。
推しであり好きな人でもある相手からの、積極的なお誘い。
俺は罪悪感を抱えつつも、断れなかった。
俺が彼の寝込みを襲ってキスをしてから二ヶ月近くたち、正直なところ――罪悪感が当時より薄くなりつつあるせいもあって。
(わぁ、なんてゴミカスな俺の良心!)
「外食なら他人の目もあるし、さすがに衝動的にキスなんてするわけない。できるわけがない。つまり侑弥くんの安全は守られるわけだから、まぁいいんじゃないか?」
なんていう、自分に都合がいい理由をつけて。
侑弥くんへの恋を自覚したからには、ちゃんと自分をコントロールできるから。
もう魔がさして、なんてことにならないよう、重々気をつけるから。
絶対もう二度とあんなことはしないって誓うから。
この恋は封印するから。
だから秘密を告白しないまま、あなたと食事へ行くことをどうか許して下さい。お願いします。
*
幼なじみの美波に、2.5次元舞台へ誘われて見に行ったのが、六月の半ばすぎごろ。
そこで見つけた侑弥くんが推しになって、写真集お渡し会に参戦したのが、七月末。
お渡し会翌日、蛍光灯交換のためにディアマリンに行ったら、なんとそこに侑弥くんが住んでいて。
色々あってソシャゲのフレンドになって、LINEしたり飯行ったりしてるうちに、推しと本当の友達っぽくなってた。
十月の二十日すぎごろに侑弥くん家でハロパして、そこで俺が寝込みを襲ってキスをして。
十一月半ばごろに、侑弥くんが百日紅ザクロをお持ち帰りしたという、虚偽の報道で炎上。
――今日が十二月二十日だから、俺が侑弥くんと出会って、もう半年もたつのか。
いや、半年しかたっていないのか。
何にせよ、すごい半年だな。
週末がクリスマスな水曜日の、十八時半すぎ。
俺は電車に揺られ、侑弥くんと待ちあわせしている駅へ向かっていた。
『炎上はおおよそおさまったとはいえ、一応念のため、今回は個室のある、ちょっといいレストランを予約したから。
サンダルとかハーフパンツとかはいてたら、入店お断りされる店だから、ドレスコードには気をつけてね。
今十二月だけど笑』
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