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「寒いし、十九時に店予約してるから、行こうか」
「はい!」
あぁ俺、侑弥くんのことやっぱスゲー好きだ。彼に恋しちゃってる。
ただのモブファンに戻らなきゃなのに、せめて……ということすらおこがましいけど、せめて友達で居続けたいと思ってしまう。
あのキス、なかったことにできないかな?
……できないよな。知ってる。
*
侑弥くんが予約してくれていたのは、一ツ星を獲得しているフレンチの店だった。
罪悪感を抱きつつも、好きな人との久しぶりの食事会はとても楽しかったし、美味しかった。
「この後まだ時間ある? ちょっとだけ飲もうよ」
食後のコーヒーを飲んでいる時、そう彼から誘われたので、レストランを出た後、バーへ行くことになった。
「僕、あまり飲めないけど、バーの雰囲気が好きなんだよね」
「あ、何か分かりますー」
適当に同意の言葉を述べた俺は、密かに少々動揺していた。
だって連れていかれた先の店が、超絶オシャレでラグジュアリーな、絶対にお高い会員制のバーだったんだもん!
某タワービル最上階にあるため、大きな窓の向こうに広がる景色は、まさに宝石箱をひっくり返したような夜景。
落ち着いているが解放感も同時にもつ店内に響くのは、ピアノの生演奏。
俺と侑弥くんが並んで座るベージュのソファーは、硬すぎず柔らかすぎずで、高級なものだと察せられる。
ダウンライト等の照明や観葉植物なども、何から何まで計算しつくされた、すべてが上質で上品な空間。
「僕はアプリコットフィズにしようかな」
いや、レストランが一ツ星だったのも驚いたけどさ。
こういうムードのあるお高い店って、本気デートの時に使う店じゃね?!
少なくとも俺は、男同士でこんな高級で小洒落た店来るのなんて、はじめてなんですけど?!
似た感じだけど、ワン……いや、ツーランクくらい下のバーへは、社会人になってからの元カノ(交際期間超短い)と、誕生日デートで行ったことあるけど……。
とにかく! 弊社一の見栄っ張り部長にだって、連れて行ってもらったことないランクの店なんですよぉ!
……俺と俺の周りが貧乏で庶民すぎるだけで、他の普通の人たちは気軽にこういう店、ヒョイヒョイ行ってたりすんのかな?! 分からん!!
「……俺はテキーラサンライズで」
ド田舎から都会に出てきたばっかの人間みたいだな、と思いつつ、俺も頼むカクテルの名前を言う。
すると、隣に座る侑弥くんが少々含みを持った感じで「へぇ」と言い、俺を見た。
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