14・テキーラサンライズ

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「え、ダメです?」 「ううん、全然。気にしないで。ちょっと思い出したことがあっただけだから」 「思い出したこと?」 「花言葉とか宝石言葉みたいに、カクテル言葉っていうのもあるでしょ。それを、ちょっとね」 あごに軽く指をあて、侑弥くんが俺を流し目で見る。 うわ、あっぶね! 俺が女だったら「抱いて!」と、今侑弥くんに土下座してたわ。 俺は男だし友達だから、できないし、しないけど。 「テキーラサンライズのカクテル言葉って、何なんです?」 「『熱烈な恋』、だよ」 侑弥くんが赤い唇の端をわずかに上げ、教えてくれた次の瞬間、俺はヒュッと息を飲んだ。 ぶわっと一瞬で顔が熱くなった後、すぐに顔から血の気が引いてくらっときつつも、必至で弁明する。 「テ、テキーラサンライズは飲みやすいから好きなのであって他意はないです! 嘘じゃないです! オレンジジュース入ってて美味しいので、本当にそれだけの理由なんです!」 必至で自己弁護する俺に侑弥くんは、優しく「うん」とだけ答えた。 これって、からかわれただけ? それとも――俺が寝込みを襲ってキスしたの、バレてるってこと? でももし仮にバレてたとして……意味が分からんな? だってバレてるなら、侑弥くんが俺にとる行動は二つじゃん? 怒って謝罪と賠償を請求するか、黙って距離をとるか。 ……ということは、やはりからかわれたのか。 しかしカクテル言葉を知ってて覚えてるなんて、侑弥くんは博識だし記憶力いいしで、本当にすごいなぁ。 * カクテル言葉が、『熱烈な恋』と判明したからって注文を変えるのは、むしろ変。 些細なことから、「えっ、まさか……」と気づかれてしまい、真実にたどり着かれては困る。 そう判断し、俺はテキーラサンライズ、侑弥くんはアプリコットフィズを頼んだ。 「マジでオシャレで、雰囲気いい店ですよね。今週末のクリスマス、カップルであふれかえるんでしょうね」 「絶対そうだろうね。イブもクリスマス当日も、僕は仕事だけど」 「俺もっスよ。まー、サービス業はしゃーないですよ」 「人が休んでいる時が稼ぎ時だものね」 注文後、そう待たされることなく運ばれてきたグラスを持ち、時おりそれをかたむけながら他愛ない会話を交わす。 ちょっと前に、俺があわあわテンパっていたのが嘘みたいな、穏やかでゆっくりした時間。
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