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「え、ダメです?」
「ううん、全然。気にしないで。ちょっと思い出したことがあっただけだから」
「思い出したこと?」
「花言葉とか宝石言葉みたいに、カクテル言葉っていうのもあるでしょ。それを、ちょっとね」
あごに軽く指をあて、侑弥くんが俺を流し目で見る。
うわ、あっぶね!
俺が女だったら「抱いて!」と、今侑弥くんに土下座してたわ。
俺は男だし友達だから、できないし、しないけど。
「テキーラサンライズのカクテル言葉って、何なんです?」
「『熱烈な恋』、だよ」
侑弥くんが赤い唇の端をわずかに上げ、教えてくれた次の瞬間、俺はヒュッと息を飲んだ。
ぶわっと一瞬で顔が熱くなった後、すぐに顔から血の気が引いてくらっときつつも、必至で弁明する。
「テ、テキーラサンライズは飲みやすいから好きなのであって他意はないです! 嘘じゃないです! オレンジジュース入ってて美味しいので、本当にそれだけの理由なんです!」
必至で自己弁護する俺に侑弥くんは、優しく「うん」とだけ答えた。
これって、からかわれただけ?
それとも――俺が寝込みを襲ってキスしたの、バレてるってこと?
でももし仮にバレてたとして……意味が分からんな?
だってバレてるなら、侑弥くんが俺にとる行動は二つじゃん?
怒って謝罪と賠償を請求するか、黙って距離をとるか。
……ということは、やはりからかわれたのか。
しかしカクテル言葉を知ってて覚えてるなんて、侑弥くんは博識だし記憶力いいしで、本当にすごいなぁ。
*
カクテル言葉が、『熱烈な恋』と判明したからって注文を変えるのは、むしろ変。
些細なことから、「えっ、まさか……」と気づかれてしまい、真実にたどり着かれては困る。
そう判断し、俺はテキーラサンライズ、侑弥くんはアプリコットフィズを頼んだ。
「マジでオシャレで、雰囲気いい店ですよね。今週末のクリスマス、カップルであふれかえるんでしょうね」
「絶対そうだろうね。イブもクリスマス当日も、僕は仕事だけど」
「俺もっスよ。まー、サービス業はしゃーないですよ」
「人が休んでいる時が稼ぎ時だものね」
注文後、そう待たされることなく運ばれてきたグラスを持ち、時おりそれをかたむけながら他愛ない会話を交わす。
ちょっと前に、俺があわあわテンパっていたのが嘘みたいな、穏やかでゆっくりした時間。
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