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「そうなんですよねー。だから今の会社入ってからそれに気づいて、アチャー! マズイ! となったんですけど。推し活制限されるじゃん、って」
「もしかして、転職を考えていたりして?」
「まぁ少し。でも推し活ない土日にしっかり出勤してたら、現場いかなきゃな時に、結構融通きかせてもらえる職場なんですよね。繁忙期はさすがに無理ですけど」
「へぇ。じゃぁかなり当たりな会社じゃない」
「そうだと思います。あと給料もそう悪くないんで。俺、これでも営業成績いい方なんですよー」
「何か分かる気がする。真伍くんは犬系男子で可愛いから、お客さんウケよさそうだなって」
「犬っぽいはともかく、可愛くはないですよ」
グラスを持っていない方の手で、ナイナイと俺が手を軽くふれば、侑弥くんは身体をかたむけ、俺の右肩と彼の左肩をくっつけて言った。
「真伍くんは、可愛いよ」
低く色っぽい声と内容に、俺の心臓がドキンとはねる。
ややややめてー!
片思いが加速するから、冗談でもそういうこと言うのやめてー!!
「俺、二十四歳の男スよ。可愛いはないって」
俺は慌てて左へずれ、侑弥くんと距離をとる。
「君、二十五歳の男の僕に綺麗とか美人とか、よく言うよね。なのに、そういうこと言うんだ?」
拗ねたような顔で彼が俺を見る。
侑弥くん、もう既にちょっと酔ってんのかな?
「俺が侑弥くんにそう言う場合、綺麗と美人の前に『カッコいい』や、『ハンサム』がつきますけどね。俺以外の侑弥くんファンだってそう言ってますから、客観的に見て、侑弥くんは綺麗でカッコよくて、美人でハンサムなんですよ」
「えー、何だか理不尽……。それって数の暴力じゃない? ――そろそろ二杯目頼む?」
「はい。……うーん、何にしようかな?」
またヤバイカクテル言葉ついてるの頼んじゃったらマズイから、マジで何頼もう?
「僕はキャロルにしよう」
名前にクリスマス感があるカクテルだな。
たしか、ブランデーベースのだっけか?
俺はそんなことを思いつつ、メニュー表を取り上げて開く。
「キャロルのカクテル言葉はね、『この想いを君に捧げる』」
「へー」
またドキッとした心臓を無視し、俺はメニュー表をガン見する。
侑弥くんは脳内の知識を読み上げているだけだから!
俺へ向けた愛の言葉じゃないから!
クッソ、動揺で目がすべる! 落ち着け、自分!
「僕の一杯目のアプリコットフィズのカクテル言葉は、『振り向いて下さい』なんだよ」
「カクテル言葉ってそういう系の多いんですね。カクテルが飲めるような店だと、気になる相手と一緒にいる場合も多いからかな?」
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