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15・キャロル
「は? ――え?」
「写真集のお渡し会ではじめて会った時、真伍くんに一目惚れした」
「えっと……」
「一目惚れしてたんだなって気がついたのは、風呂場の戸を修理してもらった後に、会った時だったんだけどね」
一目惚れ?
は???
舞台上の彼に一目惚れしたのは俺だが?
んんんん??
侑弥くんが? 俺に? 一目惚れ????
「写真集買ってくれて、更にはお渡し会にまで来てくれる男性ファンなんて、すごく珍しいからさ」
「まぁそうでしょうね」
俺は聴力検査をしに今すぐ耳鼻科へ行くべきか、幻聴を疑ってメンタルクリニックを受診すべきか。
一番可能性が高いのが、冗談ってヤツなんだけど。
……とにかくあり得ない事態すぎて、半ばフリーズしている脳ミソの端で、俺はお渡し会に参加した時のことを思いだそうとする。
――ダメだ。
女性ファンだらけだったことと、初近距離生侑弥くんに興奮しすぎて記憶飛んで、気がついたら会場だった本屋の、哲学書の棚の前にいたことしか思い出せん!
「こういうこと言うもんじゃないと分かっているけど、他の女の子のファンが来てくれたことより嬉しくて、好感度高くて」
あ、コレ、夢って可能性もあるな?
昔、美波の家でふざけてプレイした乙女ゲームに、こんなイベントCGがあったような?
「しかもその男性ファンが、爽やかで可愛くて結構イケてるとか――その人のこと、覚えちゃうよね」
侑弥くんが俺を見ながら、はにかむ。
ぎゃぁ! キュン越えて心臓がギュンってする!
「可愛いとかイケてるとか、そんな俺、全然……」
侑弥くんのファンになる前から、俺は外見に気をつけるようにしている。
「あいつのファンって、臭くて小汚ない奴ばっかだな」と、同界隈の他のファンや、オタクでない一般人から言われないために。
推しが活動を続けていけるように貢ぐのも大事だが、推しのイメージを下げないため、身なりに気をつけるのも大事だと思っているからだ。
でも今言った通り俺は、容姿がすぐれた人間ではない。不細工でもないと思うが。
「真伍くんは可愛いよ。今まで他の人に言われたことないの?」
「あるわけねーですよ?!」
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