2・2.5次元舞台初観劇

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2・2.5次元舞台初観劇

推しの中の人が燃えてから二日たった、日曜日の夕方。 俺と美波は、2.5次元舞台『紅い薔薇 白い薔薇〜ルナティックキス〜』が行われる会場前にいた。 「人気なんだな、この舞台」 俺は隣を歩く美波に小声で話しかける。 『チケット譲って下さい!』 会場近辺には、こう書かれた紙を持つ女の子たちがたくさんいて、会場の中へ入っていく俺たちへうらやましげな視線を向けてくる。 しかし――最初から分かりきっていたことだが、居心地が悪い。 演者のほとんどがイケメン俳優なため、ターゲットでない男性客の姿は極めて少ない。 俺がこれまで参戦してきた、野郎まみれのむさ苦しい現場と違いすぎる。 まぁ、「隣席の奴が臭くありませんように!」と願わずにすむので、その点は嬉しいのだけど。 「原作人気もあるけど、人気の若手舞台俳優が何人も出演するし、大千秋楽だからね。そりゃ人多いよ」 「お、大千秋楽?! お前、そんな貴重なプラチナチケットをファンでもない俺に?!」 「黙って! 聞かれたら面倒臭くなりそうなことしゃべらないで!」 約十五センチ下から、殺意のこもった目でにらまれたので、俺は慌てて右手で己の口をおおう。 それはそう。確かにそう。 理由は何であれ、見に来た以上、トラブルを起こさない普通の良い客でいるべきだ。 * 受付でチケットをもぎってもらい、ホール内へ入る。 手元に残った半券に印刷されていた席番は、結構な良席だったので、心の中で再度「ファンの人、すまん」と詫びながら座った。 そして幕が上がり――俺の人生初の、イケメン乱舞な2.5次元舞台がはじまった。 「乙女ゲー原作といっても、ミステリー色が強い作品だから、男でもそれなりに楽しめると思うよ」 ――と、事前に幼なじみから言われていた通り、『紅い薔薇 白い薔薇〜ルナティックキス〜』の舞台は、中々面白かった。
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