15・キャロル

2/5
前へ
/102ページ
次へ
「お前、可愛い奴だな〜」と、先輩や他店の上司などから頭をワシャワシャされたり、酔った勢いで抱きつかれたことなんかならある。 しかしそれは、今侑弥くんが言っている『可愛い』とは違う意味でだし。 「ふぅん? 周りの人、節穴なんだね」 侑弥くんはちょっとだけ眉をひそめ、解せない、という雰囲気をかもす。 「いやぁ、そんなことはないと思います。ディスるつもりはないですけど、俺なんかが可愛く見える侑弥くんの方が、少数派と思いますよ……」 「えぇ? そうかな? 僕の『可愛い』の基準、マジョリティ寄りと思うんだけど」 いいえ。絶対マイノリティ側ですよ。断言します。 「まぁ他の人がどう思うかなんていうのは、どうでもいいことだね。――とにかく君は、僕の好みドンピシャってこと」 頬を染め、たれ目気味だがぱっちりした二重の目を細め、赤い唇の両端をきゅっと上げ、侑弥くんが微笑む。 魅力的すぎるそれを真正面から直視してしまった俺は、一瞬で心を奪われ、思わず「は……」と感嘆の声をもらした。 「でもさっき言ったように、一目惚れしたことに気がついたのはお渡し会含め、三回目に会った時だったんだけどね」 テーブルの上の空になったグラスを見ながら、懐かしむような声で彼が言う。 「真伍くんと会うまでは僕、女性にしか恋愛感情を抱いたことがなかったから、すぐに気づけなかった」 推しはふふっと笑うと顔を上げ、彼の澄んだ瞳にまた俺をうつす。 「君のことが好きなんだ、真伍くん。だから僕とつきあって欲しいです」 雨上がりの初夏の空のような、ガラスのコップに注いだサイダーみたいに爽やかな、再度の告白。 「ぁ…っ……」 ぶわっと全身に鳥肌がたち、俺は右手で服の上から左腕を強く押さえた。 片想い相手の推しから告白されてしまった! しかも二回も! 侑弥くんてば、俺なんかが好みドンピシャで、好きなんだって! 信じられない! ううう嬉しいッ! 今これ本当に現実?! 俺、目開けたまま寝てるなんてことないよな?! まさかの両思いって、マジか?! 「真伍くんは僕のこと嫌い?」 あり得ないことを悲しげな顔で聞かれたものだから、俺は「まさか!」と言い、慌てて左右に首をふった。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加