15・キャロル

3/5
前へ
/102ページ
次へ
「俺が侑弥くんを嫌いだなんてあり得ないですから! ファンの俺が、推しのことを嫌いなわけがないでしょう?!」 「そっか、よかった! じゃあ今から僕らは恋人同士だね!」 侑弥くんは花開くような満面の笑みを浮かべ、俺の手を握ってきた。 その瞬間、 ブーーーー!! 俺の中で緊急警報の赤ボタンが押され、けたたましく脳内全体に鳴り響いた。 「――待って。ダメです」 「え?」 侑弥くんが小首をかたむけ、不思議そうな表情で俺を見る。 片想い相手からのせっかくの告白を断るなんて、ワケ分かんないですよね。分かります。 でもダメです。ダメなんです。 俺もあなたのことが大好きです。 だけど……恋人にはなれません。 「はい」って、俺はうなずけません。 「何で? 真伍くんも僕のこと好きなのに? どうしてダメなの?」 侑弥くんの手の中から自分の手を引き抜けば、彼は困惑と少しの苛立ちがまじった表情で俺へぐっと詰め寄り――爆弾を落としてきた。 「僕の家でハロウィンパーティーした日、真伍くんから眠っていた僕へキスしてきたのに? しかも唇にしたんだから、恋愛感情でのキスじゃない、と主張するのは無理があると僕は思うんだけどな?」 「ッ?!」 えええええ?!?! 侑弥くん、あの時起きてたの?! そんで、今まで知らないフリしてたんだ?! 「僕ら、絶対に両思いだよね?」 侑弥くんが俺に一目惚れをしたと気がついたのは、風呂場の戸を修理した後だと、さっき言っていた。 つまりハロウィンパーティーをしていた時は、既に俺のことが好きだったわけで。 なのに、俺が寝込みを襲った時に「両思いだね」と言わず、今ここで「実はあの時意識があったんだ」とバラしてくるんだ?! 何で?! いやまぁでも、今はそんなことは比較的どうでもいいんだよ。 それよりも、それよりもだ―― 「あのキスのこと、別に怒ってはいないからね、本当に。寝起きだったし、びっくりしすぎちゃって、『嘘?! 夢じゃない?!』と動揺して、あの時気づいてないふりしちゃったんだ。――真伍くんからキスしてくれて、僕嬉しかったよ」 侑弥くんが人差し指と中指で、己の唇へふれる。 わぉ、セクシー! ――じゃなくて! テンパりまくりで、感情ぐちゃぐちゃで、今俺すげーヤバくてマズイ。 脳ミソがキャパオーバー起こしかけてる。 だけど、ちゃんとしないと!
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加