15・キャロル

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「君からキスしてくれたのに、どうして僕とつきあってくれないの?」 「それは……俺のスタンスというかポリシーというか、そういうのに反するから、です……」 「ルール違反です!」と、心の中のアイドル(推し)オタク警察が、サイレンを鳴らしながら赤いパトランプをくるくる回す。 「どういうこと?」 「俺、アイドルには――推しには、引退するまでは恋人を作らず、ファンに夢を見せ続けていて欲しいんです」 侑弥くんの顔がこわばる。 あ"あ"あ"あ"! そんな表情させてしまってごめんなさい! でも……。 「芸能人だって舞台から下りたら普通の人間で、普通の生活してるって分かってます。だからこれは、俺のひとりよがりなムチャクチャな理想論で、押しつけだってことも分かってます」 彼の顔を見ていられなくなった俺はうつ向き、ヒザの上で両手を爪が食い込むくらい強く握る。 「でも俺は、過去に何度も推しの熱愛報道で傷ついて、嫌な思いをしてきたから……」 「んー……分かるような――いいや、真伍くんが言わんとしていること、やっぱり全然、僕には分からないよ……」 「偶像(アイドル)偶像(アイドル)のままでいて欲しいんです。手を伸ばせば届きそうでいて絶対に届かない、夜空に輝く一番星のままで、誰にも不可侵の存在でいて欲しいんです。板の上から下りたらファンと同じ、ただの人間なんだと知らしめないで欲しいんです」 勝手すぎることをベラベラしゃべる俺。 芸能人も同じ人間だと分かっているだなんて言いながら、ファンと同じ『人間』であることを許す気がない、理想の押しつけ。 基本的人権を無視した願い。 「自分はこんなにも推しのことを知っていて、大好きで特別なのに、推しにとって自分はただの有象無象の一ファンでしかなかったことを、気づかせられるのはつらいんです。選ばれなかった人間はつらいんです」 何を言っているのだろう、と自分でも本気で思う。 けど、でも、それでも。 「君が言わんとしていることは、何となく分かったような……気がする」 侑弥くんの顔を見れないままの俺の耳に、一応の理解を示しつつも、依然として困惑の色が強い彼の声が届く。
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