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「でもね、真伍くん。こういうと傲慢に聞こえるかもしれないけど、今回真伍くんは一ファンで終わらなかったんだよ。僕の、君の推しの、特別に選ばれたんだ」
言外に「分かるよね?」という一文を含ませた彼の言葉に、俺は小さくうなずいて返す。
「なら、」
「でも俺がここで侑弥くんの恋人になったら、他のファンは嫌でしょう?」
約一ヶ月前に起きた、侑弥くんと百日紅ザクロの、誤スクープからのお持ち帰り熱愛疑惑報道。
侑弥くんにガチ惚れしている俺はあの時、これまでの人生で一番のダメージを心に受けた。
東海林侑弥は俺たちファンのものなのに! と、心の中で泣き叫んだ。
百日紅ザクロなんていう三流アイドルなんて、侑弥くんにふさわしくない!
だからあんな女、選ばないで!
あなたは偶像なのだから、俺たちファンに夢を見せ続けてよ! と。
男女問わず、芸能人が交際を認めたり結婚したりすると、「○○ロスで会社休みました/学校休みました」なんて話が、SNS上によくあがってくる。
そうなってしまうのは、ガチ恋じゃなかったとしても、心に大きいダメージを受けたから。
『よく上がってくる』ということは、それだけダメージを受ける人数が多いということ。
つまり「推しくん結婚おめでとう! お幸せに!」と、手放しで祝福できないファンも結構いるってこと。
そして俺も、祝福できない派な心が狭いファンなワケで。
「……他のファンの気持ちまで考えて、だから僕とつきあえないと断るなんて、真伍くんは優しいね」
「違います。自分は優しくなんてないです」
過去の自分が、「もしここで侑弥くんとつきあったら、お前、裏切者だからな!」と、鬼のような形相で叫んでいる。
「いざ自分が選ばれたら今までのことを忘れ、自分以外のガチ恋勢を、死ぬほど傷つけると分かっているのにつきあうんだ? 最低だな!」と、憤怒の形相で叫んでいる。
「優しいよ。でも、うーん……困ったな。――あ、いや、そんなこともないか」
横目で侑弥くんを見れば、彼は明るい笑顔でとんでもないことをさらりと言った。
「真伍くん理論だと、引退したら恋愛OKってことだものね」
「ぇ、ちょ……?!」
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