104人が本棚に入れています
本棚に追加
嘘偽りなく、俺は侑弥くんのことがまるっと全部好きだ。
二十四時間いつでも、どんな彼でも、きっと絶対大好き。
しかし……まず俺は、『俳優・東海林侑弥』の大ファンなんだよ。
東海林侑弥の演技が好きで歌声が好きでダンスが好きな、ファンなんだ!
生まれて初めて2.5次元舞台を見たあの日、舞台の上でスポットライトを浴びて輝くあなたに、俺は一目惚れしたんだよ!!
だから侑弥くんが俳優を辞め、夢であるフレンチの料理人へ再挑戦することは――手放しで応援できない。
色々な役を演じる俳優の彼を、俺はまだ見続けたい。
「ハロウィンパーティーの時、僕が作った料理を真伍くん、美味しいって言ってたくさん食べてくれたでしょ。その時ね、千秋楽の緞帳が下りた時より充実感があってさ」
「えっ……」
何てこった!
俺が最後の一押しをしてしまっていたのか?!
「あっ、役者を辞めると決断したのは、ソレきっかけじゃないから、安心して」
顔をひきつらせて固まる俺を見て、侑弥くんがフォローを入れてくれる。
だけど、転職の意思を加速させたのは、ほぼほぼ俺のせいで確定な気がしてならない……。
「あとはアレだ、プライバシーの問題」
先月の、百日紅ザクロとの炎上の件が、ぱっと思い浮かぶ。
「芸能人は売れなきゃ食べていけないけど、売れたら売れた分だけ、有名税も高くつくからね。パパラッチ以外にもストーカーとかあるし……」
「侑弥くんストーカーいるんですか?! 誰です?! どこのどいつです?! そんな不届きな奴はとっちめて俺がボコボコに……!」
「待って待って! 今はいないから! 僕と同じ事務所の、他の役者の話!」
「本当に?」
「本当だよ。大丈夫。心配しないで。――とにかくね、この仕事に従事していると、外出するたび色々と面倒だし、ウンザリして気が休まらないってこと」
2.5次元舞台の大人気俳優の推しは目を伏せ、大きく深くため息をつく。
「そのあたりは売れてる芸能人な以上、マジでどうしようもないですよね……。嫌な等価交換……」
「仕方ないんだけど、困っちゃうよね。――ということで、真伍くん。僕の恋人になってくれないかな?」
話を仕切り直した侑弥くんが、笑顔で食い下がってくる。
ヒンッ! 麗しすぎて目がつぶれる! この顔面好きすぎるぅ〜〜!――じゃなくて!
「えっとそれは……だから、あの……」
うなずけない俺は困り、視線をさ迷わせる。
「やっぱり、芸能人じゃなくなる僕じゃ魅力減退で、寝込み襲ってキスしたくなる気持ちは消えてしまう?」
「いいえっ! たとえ芸能人じゃなくなっても侑弥くんは俺の推しで、輝いてて素敵で、大好きに決まってます!」
最初のコメントを投稿しよう!