16・アプリコットフィズ

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嘘偽りなく、俺は侑弥くんのことがまるっと全部好きだ。 二十四時間いつでも、どんな彼でも、きっと絶対大好き。 しかし……まず俺は、『俳優・東海林侑弥』の大ファンなんだよ。 東海林侑弥の演技が好きで歌声が好きでダンスが好きな、ファンなんだ! 生まれて初めて2.5次元舞台を見たあの日、舞台の上でスポットライトを浴びて輝くあなたに、俺は一目惚れしたんだよ!! だから侑弥くんが俳優を辞め、夢であるフレンチの料理人へ再挑戦することは――手放しで応援できない。 色々な役を演じる俳優の彼を、俺はまだ見続けたい。 「ハロウィンパーティーの時、僕が作った料理を真伍くん、美味しいって言ってたくさん食べてくれたでしょ。その時ね、千秋楽の緞帳(どんちょう)が下りた時より充実感があってさ」 「えっ……」 何てこった! 俺が最後の一押しをしてしまっていたのか?! 「あっ、役者を辞めると決断したのは、ソレきっかけじゃないから、安心して」 顔をひきつらせて固まる俺を見て、侑弥くんがフォローを入れてくれる。 だけど、転職の意思を加速させたのは、ほぼほぼ俺のせいで確定な気がしてならない……。 「あとはアレだ、プライバシーの問題」 先月の、百日紅ザクロとの炎上の件が、ぱっと思い浮かぶ。 「芸能人は売れなきゃ食べていけないけど、売れたら売れた分だけ、有名税も高くつくからね。パパラッチ以外にもストーカーとかあるし……」 「侑弥くんストーカーいるんですか?! 誰です?! どこのどいつです?! そんな不届きな奴はとっちめて俺がボコボコに……!」 「待って待って! 今はいないから! 僕と同じ事務所の、他の役者の話!」 「本当に?」 「本当だよ。大丈夫。心配しないで。――とにかくね、この仕事に従事していると、外出するたび色々と面倒だし、ウンザリして気が休まらないってこと」 2.5次元舞台の大人気俳優の推しは目を伏せ、大きく深くため息をつく。 「そのあたりは売れてる芸能人な以上、マジでどうしようもないですよね……。嫌な等価交換……」 「仕方ないんだけど、困っちゃうよね。――ということで、真伍くん。僕の恋人になってくれないかな?」 話を仕切り直した侑弥くんが、笑顔で食い下がってくる。 ヒンッ! 麗しすぎて目がつぶれる! この顔面好きすぎるぅ〜〜!――じゃなくて! 「えっとそれは……だから、あの……」 うなずけない俺は困り、視線をさ迷わせる。 「やっぱり、芸能人(推し)じゃなくなる僕じゃ魅力減退で、寝込み襲ってキスしたくなる気持ちは消えてしまう?」 「いいえっ! たとえ芸能人じゃなくなっても侑弥くんは俺の推しで、輝いてて素敵で、大好きに決まってます!」
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