17・推しを兄としたう男(前編)

2/4
前へ
/102ページ
次へ
偶像(アイドル)は引退するまでは恋愛せず、ファンに夢を見せ続けて欲しい」とか、「推しの熱愛報道で傷ついた昔の俺と、他の侑弥くんファンを裏切れない」とか……勝手すぎる理想を押しつける、俺にフラれたせいで。 推しであり、好きな相手でもある侑弥くんに理不尽を言って傷つけるなんて、マジで俺って最低。 今すぐこの世から消えて、いなくなりたい気分。 「おい、お前」 少し離れた場所から呼びかける、男性の不機嫌な声が、突然俺の耳に飛び込んできた。 誰へ宛ててのものかは分からなかったが、俺は反射的に声がした方へ顔を向ける。 「――うん?」 俺が座るベンチから、大股四歩ぶんくらいの距離に立つ男性。 長身で大学生くらいで、服装は黒ずくめ。 ミディアムウルフで、ブロンドベージュの明るい髪色の、びっくりするくらい綺麗な顔をした、俺が一方的かつそれなりに知っている人間。 「も、萌葱真琴(もえぎまこと)……くん……?」 侑弥くんと萌葱くんは同じ事務所だし、度々共演している。 だから俺は推しの画像目当てで、萌葱くんのSNSアカウントをよくチェックしている。 そのため俺は、彼の顔をしっかりと覚えてしまっている。 よって今あそこへ立つ男は間違いなく、2.5次元舞台俳優の中で今一位二位を争う人気俳優、萌葱真琴だ。 俺が初めて見に行った2.5次元舞台『紅い薔薇 白い薔薇〜ルナティックキス〜』で、メインヒーローのカイト役をしていた彼だ。 その萌葱くんが何でこんなところにいて、何故俺に声をかけてきたのか? ワケが分からなすぎて俺がぽかんとしていると、萌葱くんが婉曲的に答えを言った。 「侑兄(ゆうにい)ってば、こんな奴のどこがいいんだか」 チッ、と憎々しげに萌葱くんが舌打ちする。 彼とは以前に一度、イタ飯屋に侑弥くんと行った時に会っているが――まるで、バーでの俺と侑弥くんのやり取りを聞いてたかのような発言。 つまりはたぶん、そのままストレートにそういうこと(・・・・・・)な気がした。 萌葱くんのSNSを見ているだいたいの人は、「侑弥くんと萌葱くんは仲良しなんだろうな」と、思っていると思う。 しかし侑弥くん曰く、萌葱くんとは『一方的になつかれている』関係、とのことだったので。 ねぇ侑弥くん。 「今はストーカーいない」と言っていたけど、いるじゃん……。 「でもまぁ、お前――宮田真伍だっけか? 侑兄が俳優辞めるの止めたことは、誉めてやる」
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加