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「偶像は引退するまでは恋愛せず、ファンに夢を見せ続けて欲しい」とか、「推しの熱愛報道で傷ついた昔の俺と、他の侑弥くんファンを裏切れない」とか……勝手すぎる理想を押しつける、俺にフラれたせいで。
推しであり、好きな相手でもある侑弥くんに理不尽を言って傷つけるなんて、マジで俺って最低。
今すぐこの世から消えて、いなくなりたい気分。
「おい、お前」
少し離れた場所から呼びかける、男性の不機嫌な声が、突然俺の耳に飛び込んできた。
誰へ宛ててのものかは分からなかったが、俺は反射的に声がした方へ顔を向ける。
「――うん?」
俺が座るベンチから、大股四歩ぶんくらいの距離に立つ男性。
長身で大学生くらいで、服装は黒ずくめ。
ミディアムウルフで、ブロンドベージュの明るい髪色の、びっくりするくらい綺麗な顔をした、俺が一方的かつそれなりに知っている人間。
「も、萌葱真琴……くん……?」
侑弥くんと萌葱くんは同じ事務所だし、度々共演している。
だから俺は推しの画像目当てで、萌葱くんのSNSアカウントをよくチェックしている。
そのため俺は、彼の顔をしっかりと覚えてしまっている。
よって今あそこへ立つ男は間違いなく、2.5次元舞台俳優の中で今一位二位を争う人気俳優、萌葱真琴だ。
俺が初めて見に行った2.5次元舞台『紅い薔薇 白い薔薇〜ルナティックキス〜』で、メインヒーローのカイト役をしていた彼だ。
その萌葱くんが何でこんなところにいて、何故俺に声をかけてきたのか?
ワケが分からなすぎて俺がぽかんとしていると、萌葱くんが婉曲的に答えを言った。
「侑兄ってば、こんな奴のどこがいいんだか」
チッ、と憎々しげに萌葱くんが舌打ちする。
彼とは以前に一度、イタ飯屋に侑弥くんと行った時に会っているが――まるで、バーでの俺と侑弥くんのやり取りを聞いてたかのような発言。
つまりはたぶん、そのままストレートにそういうことな気がした。
萌葱くんのSNSを見ているだいたいの人は、「侑弥くんと萌葱くんは仲良しなんだろうな」と、思っていると思う。
しかし侑弥くん曰く、萌葱くんとは『一方的になつかれている』関係、とのことだったので。
ねぇ侑弥くん。
「今はストーカーいない」と言っていたけど、いるじゃん……。
「でもまぁ、お前――宮田真伍だっけか? 侑兄が俳優辞めるの止めたことは、誉めてやる」
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