17・推しを兄としたう男(前編)

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萌葱くんは大股で俺の前まで歩いてくると、二重の目を細めて俺を無遠慮にじろじろ見ながら、偉そうに言う。 「……俺に何か用ですか?」 警戒心を隠して尋ねつつ、俺は彼のファンである美波から聞いた情報を頑張って思い出す。 ええと……萌葱真琴は今年で二十一歳で、AB型。 身長は俺以上侑弥くん以下……確か百八十センチくらいだったはず。 俳優業以外に、モデルもちょっとやってんだっけか。 見た目は線の細いスーパー美青年だが、中身はヤンキーなので、そのギャップがイイ! のだと美波が言っていたな。 実際、中学高校と不良だった、という噂があるらしい。 「ふーん? 侑兄のことだけじゃなく、オレのことも覚えてんだ?」 「侑弥くんとよく共演されてますし、以前に一度、イタ飯屋で会いましたし」 「そうだな」 萌葱くんはちょびっとだけ口の端を上げて笑い、コートのポケットへ手を突っ込んだまま、俺の隣へ座った。 「お前のどこがいいんだか、オレには全然分からん。侑兄なら男でも女でも、もっと上のヤツ狙えるし落とせるのに……」 失礼なヤツだな! だが、めちゃくちゃ同意する! でも侑弥くんは誰も狙わないで欲しいし、どんな美男美女にも落とされて欲しくないけどな! 「もしかして萌葱くんも、さっきまであのタワービル最上階のバーにいたんですか?」 俺のこの問いに、萌葱くんが「いいや、いなかった」と首を左右にふると、彼の耳に複数つけられたピアスがきらりと月の光を反射した。 「オレって結構どこでも目立つから、オレのかわりに下僕を派遣した」 「下僕?!」 「下僕と書いてスパイと読め」 「スパイって何すか?! 俺や侑弥くん視点だと、更に物騒になったんですけど?!」 下僕を使ってまでミッションインポッシブルならぬ、ストーカー行為をするな! 「先月、百日紅ザクロ(三流ブス)のせいで侑兄、炎上させられただろ。だからまた、そういうことが起こらねぇようにだよ」 「な、なるほど……?」 いやでも、ストーカーはストーカーだし、侑弥くんが嫌がる行為だよな? 「侑兄はすげー優しいせいもあってか、ちょっとぽーっとしてるとこがあんだろ? だからオレが気をつけてやってんの」 「……萌葱くんは、侑弥くんのことが好きなんですか?」
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