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萌葱くんは大股で俺の前まで歩いてくると、二重の目を細めて俺を無遠慮にじろじろ見ながら、偉そうに言う。
「……俺に何か用ですか?」
警戒心を隠して尋ねつつ、俺は彼のファンである美波から聞いた情報を頑張って思い出す。
ええと……萌葱真琴は今年で二十一歳で、AB型。
身長は俺以上侑弥くん以下……確か百八十センチくらいだったはず。
俳優業以外に、モデルもちょっとやってんだっけか。
見た目は線の細いスーパー美青年だが、中身はヤンキーなので、そのギャップがイイ! のだと美波が言っていたな。
実際、中学高校と不良だった、という噂があるらしい。
「ふーん? 侑兄のことだけじゃなく、オレのことも覚えてんだ?」
「侑弥くんとよく共演されてますし、以前に一度、イタ飯屋で会いましたし」
「そうだな」
萌葱くんはちょびっとだけ口の端を上げて笑い、コートのポケットへ手を突っ込んだまま、俺の隣へ座った。
「お前のどこがいいんだか、オレには全然分からん。侑兄なら男でも女でも、もっと上のヤツ狙えるし落とせるのに……」
失礼なヤツだな!
だが、めちゃくちゃ同意する!
でも侑弥くんは誰も狙わないで欲しいし、どんな美男美女にも落とされて欲しくないけどな!
「もしかして萌葱くんも、さっきまであのタワービル最上階のバーにいたんですか?」
俺のこの問いに、萌葱くんが「いいや、いなかった」と首を左右にふると、彼の耳に複数つけられたピアスがきらりと月の光を反射した。
「オレって結構どこでも目立つから、オレのかわりに下僕を派遣した」
「下僕?!」
「下僕と書いてスパイと読め」
「スパイって何すか?! 俺や侑弥くん視点だと、更に物騒になったんですけど?!」
下僕を使ってまでミッションインポッシブルならぬ、ストーカー行為をするな!
「先月、百日紅ザクロのせいで侑兄、炎上させられただろ。だからまた、そういうことが起こらねぇようにだよ」
「な、なるほど……?」
いやでも、ストーカーはストーカーだし、侑弥くんが嫌がる行為だよな?
「侑兄はすげー優しいせいもあってか、ちょっとぽーっとしてるとこがあんだろ? だからオレが気をつけてやってんの」
「……萌葱くんは、侑弥くんのことが好きなんですか?」
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