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「んなこと分かってんよ。それでも、侑兄が役者辞める理由をひとつ潰したのは、いいことだ。――なぁ、どうしたら侑兄が役者続けてくれると思う?」
「……分かりません。説得しまくるしかないんじゃないです?」
「投げやりなこと言うな! もっとちゃんと考えろよ! それでもファンか?! 侑兄の舞台、お前だってこれからもたくさん見たいだろ?!」
「そりゃ見たいですけど……」
見たいけれど、それはファンのエゴだよな、とも思う。
恋愛や結婚と同じく、推しの夢を尊重し、新たな道へ進むのを応援するのが、正しい光のファンなんじゃないか? と思うから。
まぁ俺は厄介ガチ恋勢の、闇寄りのファンなんだが。
しかしそんな俺でも、侑弥くんにとって幸せで、満足できる道を進んで欲しいと思っている。
フレンチのシェフになる夢を説得によりあきらめさせられ、役者で居続けさせたなら……自分が侑弥くんなら、すごく心残りになりそう。
たとえ役者として大成したとしても、人生をふり返った時、『もしも』を考えて、何とも言えない気持ちになるんじゃないのかな?って。
「うーん……そうだ! 宮田お前、恋人作れ!」
俺が真剣に侑弥くんの気持ちについて考えていると、萌葱くんが自信満々な顔で、脈絡のない意味不明なことを言ってきた。
「ハァ?! 突然何言ってんすか?!」
「ショック療法だ」
「え? 更に意味分からんです」
「お前に恋人できたら、侑兄がショック受けて、役者辞めることを少しは考えなおすかもじゃん?」
「……ないです。そんなことで考えなおしなんてしないですよ。侑弥くんは、恋と夢をごっちゃにはしないと思います」
苦しまぎれの末のアイデアだとしても……無理がありすぎる。
「そんなことねーって。お前にフラれて悲しんでる侑兄に、オレが『一緒に役者ガンバろ!』となぐさめたら、『やっぱもう一回役者頑張ってみようかな?』と思うって!」
「えぇー……」
「上手くいくって!」
いやいや、絶対上手くいかねーと思うよ、その作戦。
萌葱くんは人気に違わず、演技も歌もダンスもとても上手いんだけど……役者としての能力以外はポンコツなのか?
それとも今は冷静さを欠いているから、無茶言ってるだけ?
「実際にやってみたら、イケるかダメか分かるんだから、お前恋人作れ! 検証だ、検証!」
「絶対無理で、意味ないですって……」
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