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19・バカな俺は嘘をつく(前編)
「では、こちらの申込用紙にご記入お願いいたしますー」
俺なんかが侑弥くんをフった、翌日の夕方。
寝不足であること以外はいつも通りを装い、俺は店のカウンターで客の相手をしていた。
「空欄、全部書くんですか?」
「ちょっと申込用紙かしていただいても?――今この蛍光ペンで囲ったとこだけ埋めていただけたら、OKですので」
推薦で大学への入学を決めた女子高生とその母親へ、俺は営業スマイルで申込用紙を返す。
今朝起きた時は、全然会社へ行く気分じゃなかった。
だけどこうして忙しく仕事をしていた方が、色々ぐるぐる考えて病む時間が少なくなっていい、ということに接客しながら気がついた。
「申込書を書いていただいてる間に、身分証をコピーしてきますので、貸していただけますか?」
俺は親子からそれぞれ身分証を受け取り、パーテーションの裏へあるコピー機へ向かう。
すると、ちょうど久保田が使い終わったところに遭遇した。
「よう、宮田。今日地味に客多いよな。順調か?」
「まぁまぁ」
「年内で忙しいのは、今日明日くらいまでかねぇ?」
「たぶんそうじゃね? 今週末クリスマスで、それ終わったらすぐに年末で正月の準備もあって、不動産屋来てる場合じゃなくなるから」
「だな。――年開けたらそろそろ繁忙期に突入、て感じかぁ。あー、だる……」
「大学の合格発表と会社の人事異動がある、二月三月がまた来ると思うと、今からしんどいな」
身分証のコピーをとりながら久保田と短い雑談をした後、カウンターで申込書の空欄を埋めている客の元へと戻る。
「こちら、ありがとうございました。――あと少しですね」
二人に身分証を返し、俺は立ったまま、記入具合を確認する。
そして椅子へ座ろうとした時、スーツの上着のポケットに入れていた、私用スマホが短く震えた。
この短い振動は、LINEに新着メッセージが到着したことを知らせるものだ。
誰からのメッセージが届いたんだろう?
もしかして、侑弥くんからだったりして?
えっ……もしそうだったら、見るの怖い……。
いやでも、美波とか他の奴からかもしれないし?
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