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心の中でそうあなどりまくっていた、乙女ゲー原作の2.5次元舞台だったが――幕間休憩がはじまると同時に俺が物販へ向かったのも、もう数時間も前の出来事。
「……飲み代のついでに、金おろしておいてよかった」
俺の腕には美波に借りたエコバッグが下がり、その中には推しのグッズが入っている。
俺が新たにハマってしまったのは、主人公の幼なじみである『竜成』役の人。
「でもまぁあんたが落ちるのも分かるわ。侑弥くん、めちゃカッコよすぎたもんね。爽やかなところと優しい雰囲気が、キャラにぴったりマッチしていて、本当に3D竜成だったもん! 泣き黒子の位置まで同じだし、竜成役はマジでハマり役でしょ〜!」
美波は両手で自身の頬を包み、クネクネとキモい動きをする。
気持ちはとても分かるが、オタク以外もいる電車内なので自重しろ。
「あのさ、東海林侑弥さんて、人気な役者なの?」
「――ん? あぁ、うん、そうだね。私は2.5次元舞台にあまり詳しくないけど、たぶん今日のキャストの中なら、二番人気くらいかな? 今売り出し中の人気俳優だよ」
「へー」
「でもさぁ、竜成も最高だったけど、カイトも最高だったよね!! カイト役の萌葱くん、美しすぎるでしょ〜〜! あー! 本当にマジでリアルカイトだったよぅ。カッコよすぎるぅ……!」
だから美波よ、クネクネするな!
でも、今日この舞台につれてきてくれてありがとう!
*
電車を降りて美波と別れ、一人暮らしをしているマンションの自宅についた時には、時刻はもう二十二時を過ぎていた。
明日は仕事なのだから、さっさとシャワーを浴びて寝るべきだ。
けれど俺の目も身体も、ローテーブルの上に並べた、東海林侑弥が扮する竜成のブロマイドの前から動けないでいる。
「はぁ……」
ため息が音をもち、俺の口から吐き出される。
彼のグッズを全種類買いあさっておいて、この期に及んで何をいう! 往生際が悪いぞ! なのだが……いまだ戸惑う気持ちも、正直ある。
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