19・バカな俺は嘘をつく(前編)

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萌葱くんに返信したのでLINEを閉じ、すごく久しぶりに推しの中の人が炎上したゲーム、『ムンドリ』を起動させた。 ゲームのホーム画面には、侑弥くんの前の推しだった、巨乳黒ギャルのユイカがご機嫌な笑顔で立っている。 相変わらず可愛いな、と思う。 可愛いとは思うけれど、以前のような「ユイカってば超カワイイ〜〜! 好きぃ〜〜!」という、熱狂的な感情はもうない。 侑弥くんが芸能界を引退し、次の推しを見つけたら、今俺が彼へ抱く激重感情も霧散し、こんな風に過去のものになるのだろうか? ……分からない。 男に恋をするのも、推しへガチ恋するのもはじめてだから、どうなってしまうのかが皆目見当がつかない。 気を紛らわせようとして起動した『ムンドリ』だったが、逆にますます鬱な気分になってしまった。 ゲームするのやめよ……――あ。 ゲーム画面上部に、またLINEのポップアップが表示される。 『昨日はごめんね』 メッセージの差出人は侑弥くんで。 ぽつんぽつんぽつんと、少し間を空けながら侑弥くんからメッセージが連続で届き、俺はポップアップでそれを読む。 『芸能人とファンの垣根をいきなり越えて、告白してしまって』 『だけど本当に真伍くんのことが好きなんだ』 『困らせることをまた言ってごめんなさい』 『でも僕、君のことをあきらめられない』 『だからもし、推しとはつきあえないという考えが変わったら、いつでも連絡下さい』 『待ってます』 少しも遊ばずにゲームを終了し、侑弥くんからのメッセージにも既読をつけないまま、俺はスマホをポケットへしまう。 どう返事をしたらいいかを悩んでいると、あっという間に降りるべき駅へ着いてしまったので、人の流れにのって電車を降りる。 『推しには、引退するまでは恋人を作らず、ファンに夢を見せ続けて欲しい』 『自分が過去に何度も推しの熱愛報道で傷ついて、嫌な思いをしてきたから』 などという、勝手すぎる理想を押しつけてフっておきながら何言ってんだ! なのだが―― 侑弥くんが俺のことあきらめないでいてくれて、まだ好きって言ってくれるのが、すごく嬉しい。 でもそう思うと同時に、申し訳なさで死にたくもなる。
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