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20・バカな俺は嘘をつく(後編)
「あ、また来た」
明日が仕事納めな十二月二十七日の、定時から約二時間後。
残業により、仕事場で最後の一人となってしまった俺は、スマホを見てつぶやく。
「毎日毎日……何なんだろうな?」
今俺の私用スマホの画面に表示されているのは、LINEの萌葱くんとのトーク画面。
萌葱くんとLINEを交換した翌日から毎日、侑弥くんのアクリルスタンドと一緒に何かを撮った画像が、彼から送られてくる。
(アクスタと一緒に写っているのは、飯であることが多い)
ほとんどの場合、画像だけがピロンと一枚送られてくるだけなので、返事に困る。
しかし放置していると、『返事しろや』と督促してくるため、俺は仕方なく『イイね』的なスタンプを送って誤魔化している。
「うがー! めんどくせぇー!」
一人きりなのをいいことにそう叫んだが――実際のところ萌葱くんへの返信は、別に大声を出すほど面倒ではない。
面倒なのはどちらへもふりきれない、俺の侑弥くんへの気持ちだ。
俺は侑弥くんのことが好きで、彼とつきあいたい。
だけど、推しとつきあうなんてファンとしてルール違反じゃん! と、もう一人の俺がストップをかけてくる。
このふたつの気持ちに左右から同じ力で引っ張られ、俺の心はどっちにもかたむけないでいる。
階段の踊場へ、告白されたあの日から、ずっといる感じ。
階段を上がるか下りるか、決められない。
踊場は滞在する場所じゃないから、すこぶる居心地が悪い。
「……帰るか」
パソコンの電源を落とし、デスクの上を片付け、コートを羽織ってからバッグを持つ。
店舗裏の従業員用出入口から出て、鍵をしめる。
建物と建物の間の狭くて暗い路地を進み、通りへ四歩出た時、後ろから呼び止められた。
「待って、真伍くん」
聞き知った、心地のよいテノール。
ふり向けば、俺の大好きな人がいた。
「侑弥くん……!」
彼からの告白を俺が断り、LINEすらもやり取りしなくなってから約一週間。
「なんでここに……」
「君に会いたかったからだよ」
黒のパーカーの上に茶色のチェスターコートを羽織り、下はゆったりとしたシルエットの薄いグレーのパンツ。
そして外出時には大抵装備している、黒ぶちのメガネをかけた侑弥くんが、すぐそこにいた。
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