20・バカな俺は嘘をつく(後編)

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「会いに来ちゃだめなことは分かってる。ごめんね。だけど、どうしても会いたくて」 背景は不動産会社側面の薄汚れた壁という、映え皆無な場所なのに、侑弥くんがそこに立っているだけで、まるでドラマのワンシーンみたいに見える。 「好きな相手と一週間、LINEすらできてないから我慢できなくなって、来てしまいました」 台詞じゃないのに、台詞みたいな言葉。 しかもラブロマンス系の。 ときめいている場合じゃないのにキュンとしてしまった俺は、強く手を握り、手のひらに爪を食い込ませる。 「キモいしウザイよね。本当にごめん」 驚きにより、ふり向いた時の体勢のまま固まっている俺の心情を誤解し、侑弥くんは申し訳なさそうに目を伏せた。 「そ――そんなことないです! 少しだってキモくもウザくもないです!」 謝罪以外の全部の言葉が、飛び上がりたいくらい嬉しい。 俺にどうしても会いたかったから、来ちゃったんだって! 俺のこと、『好きな相手』だって! あぁ良かった、侑弥くんが俺のことをまだ好きでいてくれて良かった! 俺も侑弥くんのことが大好きです! ――でも俺は、素直にこの気持ちを伝えられない。 「推しは不可侵だろ」と、ファンの俺が後ろから羽交い締めしてくるから。 「だから、ごめんなさいなのは俺の方で……」 この後何と言えばいい? と、俺が宙に視線をさ迷わせた時、「くちゅん!」と侑弥くんが可愛いくしゃみをした。 「! 侑弥くん、いつからここで俺のことを待っててくれたんですか?」 「んーと、二時間前くらいからかな?」 ハッとして俺が慌てて尋ねれば、長すぎる待ち時間を、「十分前だよ〜」くらいの雰囲気で、事も無げに告げられた。 「二時間も!? 確かにしばらく連絡控えましょうとは言いましたけど、待ちすぎですから、こいう場合はLINEして下さいよ! 風邪ひいたらどうするんですか?!」 これってつまり、俺の定時の終業時刻=閉店時間にあわせて来て、ずっと待っててくれたってことだよね?! 「鍛えてるし大丈夫だよ、二時間くらい。それに、連絡控えようって言われてOKしたのに、おしかけたわけだしさ」 「少しも大丈夫じゃないですよ! 今夜は冷えるって、天気予報でいってたじゃないですか! もうすぐ新しい舞台だって始まるのに……!」 「そうだね。まだ引退してないわけだし、仕事として引き受けた以上、きちんと体調管理しなきゃだよね」
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