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21・電話と久保田
あっという間に日は進んで除夜の鐘が鳴り、雑煮を食べ――正月休みが終わった、仕事はじめの昼休み。
萌葱くん経由でつながった、彼の姉のくるみさんとのLINEで、彼女とはじめて会う日と場所が決まった。
お互いに不定休な仕事なせいもあり、一週間後の平日の午後二時に、高級ホテルのラウンジで。
まるで本当のお見合いみたいだ、と資料室のスミに置かれたパイプ椅子に座り、彼女とのLINE画面を見ながら俺は思う。
年末のあの日俺は、「どうにかしないと」という焦りと勢いで、侑弥くんと萌葱くんに『お見合い』という強いインパクトを持つ単語を使った。
しかし俺もくるみさんも、いきなりそこまでガチった心づもりで会う予定ではない。
だが、軽い気持ちでもない。
会ってみてお互い良さげだったら、面倒な駆け引きせずつきあってみよう――正月休みの間に何度も交わしたLINEで、そんな感じの雰囲気になっている。
通話も一回したが、くるみさんは弟と違い、マトモな人っぽかったし。
だからたぶん、つきあうことになるんだろうな……と思っている。
くるみさんとつきあえば、二股でもしない限りは侑弥くんとつきあえなくなるし、だからもう彼からの告白を断らなくて済むしさ。
俺があの日、
「すみません。俺、年明けにお見合いすることになったんで、待てません。無理です」
なんていう嘘をついたのは、逃げたかったから。
推しにガチ恋している自分と、それを許せない自分からの板挟み。
板挟みで動けない故に、侑弥くんの告白を何度も断って傷つける、酷い自分。
侑弥くんが俳優を辞め、海外に行ってしまうという事実。
これら全部から逃げ出したい気持ちからの、口から出任せのムチャクチャな嘘。
これでいいのかな?
……たぶん、良くはない。
だけど、階段を上がることも下りることも出来ないなら、横にある窓から飛び降りるか、穴を掘るしかないのだ。
踊場に居続けるのも、もう限界。
*
「宮田さーん、女性のお客様から三番にお電話でーす」
閉店一時間前。
事務の女の子からそう言われたので、俺は自分の席にある電話の受話器を上げ、三番のボタンを押して外線に出る。
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