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「お待たせしました、宮田です。どうされましたか?」
そうして俺は客と二十分ほど話し、電話のフックを指で押した後、そっと受話器を戻した。
「電話、長かったな。キャンセルか?」
隣席の久保田が聞いてきたので、俺はうなずく。
「どこ申し込んでたヤツ?」
「駅前の新築のヤツだよー。あーぁ……」
「キャンセル理由は?」
「婚約破棄」
中々聞くことがない単語の登場に、「おっ! 破局理由は?」と、久保田がワクワク顔で食いついてきた。
「年末にカップルで来店しての申し込みだったんだけど――この正月に、女の方が男の実家に挨拶に行った時、男の親から物言いがついたんだと」
「物言いって、もしかして『あなたみたいな人はウチにふさわしくありませんっ!』的な?」
「正解。まさにそんな感じのことを言われたらしいよ」
「ヒエッ、マジかよ」
「男の家は由緒ある金持ちらしい。だから男親の方が興信所入れて、女のことをこっそり調べたんだと。
そしたら息子が連れてきた相手は片親で、奨学金という名の借金があるから、男の母親に猛反対されたんだってさ」
「片親も奨学金も、今の時代、別に珍しくないのにな。時代錯誤だなぁ」
「男の実家があるの田舎らしいから……まだ偏見が強いんだろうな」
俺は机の上に置いていた、飲みかけの缶コーヒーを取り上げ、ひと口飲む。
「破局したってことは、婚約者の男はママの言いなりの、マザコンなんだ?」
「婚約破棄したのは男がマザコンなのもあるけど、彼女の身近に格差婚して苦労してる人がいるから、という理由もあるみたい」
「ふぅん」
「『彼のことはまだ好きだけど、幸せになれる気がしないので』だって」
俺はしゃべりながら、電話の向こうの女性客が、一人言をつぶやくように言った言葉を思い出す。
『最初から薄々気がついていたんです。私は彼に相応しくない人間だと。私は彼と結婚できるような身分じゃなかったのに、気づかないふりをしていたんです』
散々泣いたあとっぽい、疲れきった声でのこの台詞は、俺の胸にズブリと突き刺さった。
ちょっとだけ、俺と侑弥くんにも当てはまる気がして。
お互い好きだけど一緒にはなれないとか、芸能人と一般人ファンという身分差とか、交際した場合は他のファンから良く思われないだろうこととか――勝手に重ねてしまった。
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