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「それにさぁ、熱愛報道や結婚報道されるたび、俺は思うことがあって。
ギャーギャー文句言って騒ぐファンはさ、その芸能人の人生を一生保証できんのかっていう」
「え?」
「自分は恋愛して結婚するのに、『推しは芸能人だから両方するな』は無責任だし、暴論だろ。
死ぬまでファンでいてくれて、貢いでくれて、生活保証してくれんの? ってこと」
「……ファンと結婚すれば、保証するんじゃ?」
俺がそう言うと、ハハハと久保田が笑う。
「ただのファンでしかない自分を選べって? 無茶言うなよ。
自分が芸能人だったら……と考えたら、そんなこと言えねぇだろ」
「うん、まぁ、そうだな……」
「芸能人とファンの関係をグレードダウンさせて、『ホストと客』や『キャバ嬢と客』だって、そう簡単につきあえないっていうのに。
客がどんなにキャストを好きで貢いでも、ホストやキャバ嬢とつきあえたり結婚できるのは、少数じゃん。基本的に、客は客でしかないんだよ」
うっ、と俺は返事に詰まる。
「最初から別々のカテゴリー所属で、対等な関係性じゃないんだから、その枠を乗りこえようとするなら、お互い色々頑張ったり我慢したりしなきゃならんだろうな」
久保田が机へと向き直り、ペンと書類を持ちながら言う。
「大きく話がそれたけど、もし俺に推しができて、その推しが奇跡的に俺のことを好きになってくれたら、俺はそのチャンスを逃さずつきあうと思う。
バレないようにはするけど、他のファンのことなんて気にしない。
てゆかさ、フったら推しは失恋で傷つくわけで。そこスルーしていいのかよ? ていう」
「なるほどな……」
久保田の話を聞いていた、推しの熱愛報道で傷ついてきた『過去の俺』は腕を組み、難しい顔で今の俺を見ている。
決してにらんではおらず、ただ見ている。
まぁ過去の俺だって俺には違いなく、侑弥くんのことが好きなのだ。
コイツさえ何とかできれば話は早いのだが――まだダメだ。
まだ俺はコイツに、首に縄をかけられて握られたままだ。
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