22・平日午後二時のラウンジ

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22・平日午後二時のラウンジ

一月第二週目の木曜日、午後二時。 俺は約束した通り、駅近くにある高級ホテルのラウンジで、萌葱(もえぎ)くるみさんと会っていた。 くるみさんはLINEの文面や一度だけの電話の印象とイコールな、年相応の常識と落ち着きと、優しい雰囲気を持った女性だった。 容姿も、スマホで見せられた画像よりはるかに整っていて、かなりの美人。 さすが2.5次元舞台きってのイケメン俳優萌葱真琴の姉だけある、という感じ。 こんな高嶺の花、萌葱くんが引きあわせてくれなければ、そうそう会える相手じゃないし、二人きりで話しをする機会なんて滅多にないだろう。 だから今のこの状況は、凡人なら緊張と喜びでカチコチか、テンション爆アゲヘブン状態になっているのが普通だろう。 しかし俺は凡人の癖に、今そのどちらでもなかった。 初対面だから一応少し緊張はしているが、一向に彼女に興味関心を持てないでいる。 理由は簡単。 俺の心が、東海林侑弥にとらわれたままだから。 くるみさんと笑顔で話している裏で、「明日から侑弥くんの新しい舞台始まるんだよな……」なんてことを考えてしまっている。 「――あ、もう三時すぎですね」 くるみさんが薄ピンク色のセーターの袖口を指でずらし、腕時計を見ながら言う。 「本当だ。すみません、長々話してしまって」 「いえ、そんな。宮田さん、お話しお上手だから」 「そろそろ店出ますか」 「そうですね。でもその前に私、ちょっとお手洗いに行きたいのですが……」 「あぁ、どうぞどうぞ!」 くるみさんがトイレに立つと、手持ちぶさたになった俺は、上着のポケットからスマホを取り出す。 LINEが着信していたので、アプリを起動させて確認すれば、美波からのものだった。 『明日、あんたより一足先に侑弥くんの舞台見に行ってきまーす』 『あんたも見たら、また感想飲み会やろうね!』 俺の事情なんて知らない、能天気な文面。 無意識にぐっと、スマホを持つ手に力が入る。 明日からはじまる、侑弥くん出演の新しい舞台。 当然チケットはとっているが、見に行くか否か悩んでいる。 見たい気持ちはすごくあるが、俺なんかが見に行ってもいいのかが、分からなくて。
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