22・平日午後二時のラウンジ

3/4
前へ
/102ページ
次へ
大抵の場合男にとって都合が悪い、『女の勘』てヤツが働いたっぽいな、と察した。 たぶん今俺は、しょぼくれた情けない表情をしてそうな気がするから、勘以前の話かもしれないけど。 ――って、俺何今へこんでんだよ! ダメだダメだ! しゃんとしろ! くるみさんと会うと言い出したのは、俺からなんだぞ! 今は侑弥くんのこと考えたらダメだ! 「じゃぁお会計しますんで、出ましょうか」 慌てて営業スマイルを浮かべ、俺が椅子から立ち上がろうとすると、立っていたくるみさんが、逆に椅子へ座った。 「あの、宮田さん」 「はい、何でしょう?」 俺は浮かせていた尻を、仕方なく再び座面につける。 「今日ここへ来たのは、あなたの意思ですか?」 「え?」 「真琴が――弟が、無理を言って来させたんじゃないですか?」 「いいえ、違いますけど。どうして突然そんなことを聞いてくるんです?」 「だって宮田さんてばお話ししている間ずっと、心ここにあらずな感じなんですもの。それに元気がない顔をしているし」 あぁやっぱりお察しされてた。 ダメだなぁ、俺……。 でもさすがに、侑弥くんとの両片想いで俺が心を乱しているとまでは―― 「ひょっとして、他に好きな方がいたりしません?」 えええ?! 相手が誰かは分からなくても、いきなりそこまで当てちゃうんだ?! 本命がいるのにお見合いに来てること、当てちゃうんだ?! 他人の命を預かる看護士の観察眼、てヤツですか?! 「……すみません。ごめんなさい、そうです」 ややしばらくの沈黙の後、俺は背中に冷や汗をかきながら謝り、認めた。 そして膝の上の両手を強く握り、勢いよく頭を下げる。 「せっかく今日来ていただいたのに申し訳ありません! 俺には好きな人がいるので、あなたとはおつきあいできません! 俺から会いたいと言い出したのに、ごめんなさい!」 俺が頭を下げたまま一気に言いきると、フゥとくるみさんが大きく息を吐いた音が聞こえた。 「やっぱりそうだったんですね。私の勘、ロクでもないことで大当たりしちゃった」 くるみさんの声に怒っている気配はなく、残念だわという雰囲気しか感じられなかったので、俺は恐る恐る顔を上げ、彼女を見る。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加