23・ごめんなさい、大好きです

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会ってもらう身分で相手を待たせるわけにはいかないから、俺は超高速で支度を整え、自宅を出た。 小走りで駅まで向かい、海浜公園行きの電車に乗る。 車内は空いており、座席にも余裕で座れる状態だったが、俺はドア近くに立つ。 目的の駅についたら、すぐ降りられるようにするためだ。 外が暗いため、ドアにはめられた窓は透明で黒色の鏡のようになり、俺の緊張した顔を映す。 俺はダッフルコートのポケットへ入れたスマホを握りながら、侑弥くんとの出会いから今までを順に思い出す。 はじまりは去年の六月。 美波によって強引に2.5次元舞台へ連れて行かれた俺は、演者である侑弥くんに一目惚れした。 次に侑弥くんの写真集お渡し会に行った翌日、俺が仕事で出向いたマンションに彼が住んでいて、浴室扉のノブの修理を頼まれた。 そこから俺たちは交流を持つようになり――クリスマス前になんと侑弥くんから告白された直後、「役者を辞める」とも告げられて。 つまり、侑弥くんが料理人になる夢をあきらめない限りは、俺にはこれから推しを失う未来が待っているわけだけど――俺は東海林侑弥から新しい誰かへ、推し変をするのか? できるのか? 考えなくても分かる。 答えは絶対に「イイエ」だ。 侑弥くんが引退して芸能人じゃなくなっても、俺は彼を心の中心から動かせない。 侑弥くんがどこへ行こうが何になろうが、きっとずっと俺はあなたのことが大好きで、一生あなたのファンで居続けると思う。 二度もあなたの想いを無下にしておいて、今さら何を言ってるんだ! なのは重々承知しているけれど、それでも伝えたい。 * 二十一時半を結構すぎたころ、やっと海浜公園駅に着いた。 俺はその旨をLINEで侑弥くんに連絡しながら、駅構内を早足で駆け抜ける。 寒い二月の夜、海沿いの風を防ぐ物なんてほぼない、だだっ広い公園。 遊歩道に沿って並ぶオレンジ色の街灯の光はロマンティックだが、長く滞在したらたぶん風邪をひく。 そんな場所なのに、よくもまぁカップルも釣り人もそれなりにいるもんだなぁ、と俺は頭のすみで思いながら侑弥くんを探し―― 「……こんばんは。お久しぶりです」 対岸でライトアップされて輝く観覧車を背景に据え、俺を待っていた彼と向かい合う。 ああ、今夜も彼は夜景より綺麗でカッコいい。
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