23・ごめんなさい、大好きです

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「うん」 一週間前、俺は侑弥くんが出演する舞台を見に行ったけれど、こうして彼も俺のことを認識し、言葉を交わすのは一ヶ月ぶりになる。 侑弥くんが俺にもう気がなくても、嫌いでも、またこうして会えて話せて嬉しい。 「すみません、侑弥くん。会いたいなんていうLINEを送ってしまって」 結局は自分可愛さ故の保身だったのだ……と、くるみさんとお見合いをして断った日の夜、俺はようやく醜い真実に気がついた。 俺はええかっこしいの、八方美人。 いざ己が選ばれたら千切れんばかりに尻尾をふり、推しの手をとろうとする自分がひどく浅ましく、唾棄すべき存在に思えて。 過去の自分や他のファンからうとまれ、憎悪の視線や軽蔑の目を向けられるのが、怖くて嫌で。 持ち続けたポリシーをつらぬくことが、未来永劫絶対に正しいのだと思っていて。 「前置きはいらない。君の『どうしても伝えたいこと』を早く言って」 「あっ、はい! ごめんなさい!――えっと……えっと、俺」 真冬の夜の、氷のように冷たい空気を大きく吸い込み、ぐっと唇を噛む。 そうして一拍おいた後、大きめの声で言った。 「俺は侑弥くんのことが好きです!」 芸能人が恋愛することに否定的だったくせに、いざ自分が選ばれたら手のひらを返すなんて、調子がよすぎる。 自分さえ良ければいいのかよ、最っ低! 過去の俺がそう言い、軽蔑の目を向けてくるが――受けて立つ。 ああそうさ、認めるよ。 俺は裏切り者の最低野郎だ。 しかたねーだろ! だってどんなにののしられようが、やっぱりどうしても、俺は侑弥くんへの気持ちをあきらめられないんだよ! 俺は侑弥くんの恋人になりたい! 恋人として彼の隣に立てるなら、ポリシーなんぞ捨てる! 知らん! 過去の俺よ、今の俺の言い訳をとくと聞け! 「知ってるよ。それで、何? まさかそれだけを言うためだけに、『会いたい』なんて連絡してきたの?」 「いいえ、違います!」 だいたいさ、ポリシーや考え方なんて、環境や状況、立場や時間とともに変わるのが普通だろ! 例えば、学年が上がるにつれ、担任の先生の言うことは絶対に守らなきゃいけないと思う度は、下がっていったろ? 学校から帰ったらすぐに宿題をする、と決めたのは自分だったのに、小一の終わりにはもう守られていなかったよな? 昔は会社の壁にグラビアポスター貼っても何も言われなかったらしいけど、今それやったらセクハラだし。 要は俺の思考もアップデートして、闇のファンから光のファンになろうぜ! 絶対に推しも、そっちの方が喜んでくれるしさ!
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