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お母さんがふふっと笑うから抱きついてしまう。確かなお母さんの感触に涙がつーっと頬を伝っていく。
今まで何をしてたの、とか、そっちの世界はどう?とか聞きたいことはたくさんあるのに。言葉は何も出せなかった。
「せっかくだから料理屋でもやってみる?」
お母さんがふざけるから、頷いてみる。お母さん特製の料理大好きだったんだよな。
「ここのお店の人も、いなくなっちゃったみたいだし。帰ってくるまで借りてやってみよっか。誰か他にいるかは、わからないけど」
「そうねぇ、人生のロスタイムだと思って色々やりたいことやっちゃおっか」
お母さんは、死ぬ前何をしたかったの? は言葉に出せなかった。聞きたい気持ちと、怖い気持ちがある。
お父さんも私も、お母さんがいなくなってすごく寂しかったよ。それだけは、伝えた方がいい気がした。
「あ」
「んー?」
「お母さんがいるならさ」
「お父さんもいるかもね」
「じゃあお父さんが好きなご飯作ろう! 匂いでつられないかな」
お母さんの後を追うように倒れたお父さんを思い出す。コーンのバター炒めがすごい好きだった。よく晩酌してるお父さんの横で、つまみ食いをしていたのを覚えている。
「そうね、まずはそれから作ってみましょうか。いつか、お父さんも辿り着くかもしれないし」
「そうしよ、そうしよ!」
二人で冷蔵庫に入っていた食材を確認する。運良く、冷凍されていたとうもろこしが溶けていた。
この後の世界がどうなっていくのかは分からない。私とお母さんしかいないのかもしれない。それでも、お母さんとお話しできるのが嬉しくて、この日々がまだ続くことを私は祈ってしまっている。
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