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不協和音に壊れた君は
「七瀬暁死ね。ハルモニア消えろ」
────
あれはまだ精神年齢が幼稚だった俺が、考えなしに吐いた暴言だった。
────
「冬樹……なぁ?嬉しい?」
目の前には壊れた君。
「ハルモニア消えて嬉しい?」
疲れ果てて壊れた君。
「あぁ……そうだったな……ハルモニア消えただけじゃ冬樹嬉しくないよな……」
疲れ果てて…………。
「俺が死ななきゃ……冬樹は嬉しくないよな……」
壊れた君。
「バイバイ……冬樹……」
────
「待っ…………」
目を開けて、しばし放心。
「随分……久しぶりだな」
あの夢を見るのは。
────
あの日
俺の目の前で
暁は
何よりも大切な
自身の喉を
持っていた
刃で……
引き裂いたのだった。
────
「…………?」
しばらく撫でていると、暁がもそりと身体を起こした。
まだ睡眠薬が効いているのか、ぼんやりしている。
「アキ…………」
重いであろう身体を気だるげに身動ぎさせる暁の頭を撫でる。
暁はまた夢の中へ入っていく。
「俺は…………お前が壊れるのも、お前が死ぬのも望んではいなかったんだよ」
────
あの日、調和は崩れ去った。
暁は居場所を失った。
暁が悪いわけではない。
狂った金と権力の亡者たちが奏でた、悪意と見栄と憎悪の不協和音。
それは美しき調和を見事に破壊した。
暁の心と共に。
────
暁は積み木を緩慢に持ち上げながら、うとうととしている。
薬のせいで眠たいのだろう。
けれど、昼間あまり寝かせ過ぎると夜寝つけないので、可哀想だが昼間は無理やり起こしている。
時々積み木をかじりながら、うとうととしている暁。
俺は仕事部屋からギターを持ってきた。
あの頃は、まさか彼らの歌を自分が奏でるとは思わなかった。
当時は彼らの歌は眩しすぎて、まだ反抗期を引き摺っていた幼稚な俺には、偽善者が綺麗事を羅列しているようにしか思えなかったんだ。
────
俺が奏でるギターの音に、暁がゆっくり目を開ける。
そして歌い始める。
一語一句間違えることなく、歌を紡ぐ暁。
血の滲むような練習の賜物だろう。
そんな暁の必死の努力の結果を、俺は踏みにじったのだ。
「ごめん……アキ……」
暁は歌う。
かつての眩しいステージの上のように、楽しそうに、笑顔を浮かべて……。
声帯を傷つけた喉は、あの頃のような美しい声は発しない。
でも、陽だまりの中歌う暁は、本当に楽しそうで、幸せそうで……。
俺は涙が止まらなかった。
────
あの時、
幼稚な俺があんな言葉を投げつけなければ、
調和が崩れ去った後も、
暁は
別の眩しいステージで、
あの美しい声で
あんな風に
楽しそうに
幸せそうに
歌を歌い続けたんだろうか?
「ごめん、暁……本当にごめん……」
謝罪の言葉は、楽しそうに歌う暁には届かない。
────
《簡単な設定》
小塚 冬樹(こづか ふゆき)
“トウキ”という名前で、ロックバンド『エリュシオン』のボーカルをしている。
壊れた暁の保護者兼恋人。
暁のことは“アキ”と呼ぶ。
七瀬 暁(ななせ あきら)
かつてアイドルグループ『ハルモニア』の中心人物だった。
命をかけていた『ハルモニア』が自分たちの意に反して解体させられたため 、心が壊れてしまった。
冬樹の前で喉を切った際に声帯を傷つけてしまい、かつてのような美しい声は出ない。
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