昔の記憶

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昔の記憶

シャーシャーシャーと フライパンで炒める音。 「ほら、火傷するから離れてろよ」 「うん」 「てっちゃん、料理できるんだね」 「まあね」 「ほら、出来たよ」 「うわぁ~美味しそう。いただきます」 「うまいか?」 「うん・・てっちゃん、物凄く美味しいよ」 「そうか」 私の前に座る『てっちゃん』は 頬杖をつくと、私を見て優しく微笑む。 私はそんなてっちゃんが好きだった。 ・・・ような気がする。 ピピピ ピピピ ピピピピピ ピ~ 部屋中に響き渡る大音量のアラームの音、 「う・・ん」とスマホに手を伸ばす華音。 「あ・・夢か・・」 彼女は最近、昔の夢をよく見る。 遠い昔の子供の頃の夢を。 「ん?」 彼女はベッドから慌てて起き上がると、 時計を見た。 「キャ~ もうこんな時間」  毎朝の恒例行事のように慌てて身支度をし  玄関のドアを開けると、勢いよく  部屋から出て行く。 藤森華音 二十七歳 独身 出版会社の『女性向けの食に関する雑誌』の 編集の仕事に携わっている。 属に言うリバリに仕事をこなす。 『キャリアウーマン』ではなく、   毎日コツコツと地味に仕事をこなし、 週末はご褒美の『食べ歩き』を 生きがいに毎日を送る。 言わば、ごく普通のOLだ。
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