1 馬に蹴られて異世界転生

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 一体何の番組の撮影をしているのかまでははわからないが、何かの時代劇の撮影みたいだ。カメラが廻っている。  今やっている時代劇なんてマジで少ないから、こんな場面に出くわすなんて幸運すぎる。  どうやら悪者に女性が乱暴されそうになっている場面らしい。ということは、時代劇のお約束ならこの後ヒーロー登場だ。期待が高まる。  期待通り、向こうの方から音が聞こえてくる。私は音のする方へと目線を向ける。  すらりとした白い馬に乗って誰かがやってくる。  白馬の上に乗っているのは、もちろん王子さまなんかじゃなく。 「う、上様!」  上様だった。  私の小さい頃からの憧れのヒーロー。  私は思わずよろよろと近付いていってしまう。だってだって、私が小さい頃から再放送で見まくって憧れていたヒーローが目の前にいるんだから。まさか、本当に本物が見られるなんて思ってもいなかった。  あの番組が復活するなんて情報は出ていなかったはずだ。何かの特番かCMかなんかで使ったりする映像を撮っているのだろうか。  だとすれば、その現場に遭遇できるなんて奇跡だ。  今、奇跡が目の前に。  私は夢見心地だった。 「き、君、それ以上入ったら……」  だから、他の人の声なんて雑音程度にしか聞こえていなかった。 「心菜! 危ない!」  楓がなにか叫んでいる。 「ん?」  気付いたら、いつの間にか目の前に上様がいた。すごく驚いた顔をしている。というか、上様が乗ってる馬の足が目の前に……。  上様が目の前にいることが嬉しすぎて、ふらふらとあまりに前まで出てきてしまったみたいだ。自分が怖い。 「危ないっ!」  誰かが叫ぶ。  逃げなきゃまずい! と、思ったんだけど、普段着慣れていない着物の裾をふんずけてバランスを崩した。そんでもって、タイミング悪く馬の足がこっちに向かって振り上げられて……。  パッカーン!  気付けば私は宙を舞っていた。  それはそれは、綺麗に舞っていた。
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