1 馬に蹴られて異世界転生

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 が、出来ることなら、ここにいる役者さんとか個人で来てキャッキャしてる人が着てるような、素敵な衣装が着たかった。  だけど、修学旅行のお小遣いじゃ費用がちょっと足りなかった。こっそり多めに持ってきて着ようにも先生達に見つかったらまずいから無理だったのだ。で、この際せっかくだからちょっとでも気分を味わう為に、簡易の浴衣みたいな衣装だけでもいい! ということで貸し出しの着物を着ているわけだ。もちろんカツラも無しで地毛だ。こんなんで満足できるわけがない。 「はあ、せめて岡っ引きとかさー。もっと素敵な町娘の格好とか、してみたかった……」  私はため息を吐く。 「岡っ引き? ってなに」 「さっき言ってた同心が捜査とか捕り物の為に私的に雇ってた人のことなんだけど、元々は軽犯罪者だったらしいんだよね。犯罪者ならその道にも通じてるってことで役立ってたみたいでさ。だから本当は差別的な呼び方らしいんだけど、時代劇では差別的な意味ではなく職業の名称として普通に使われててね。元犯罪者って設定でもなくて、普通に今の刑事さんみたいな感じで描かれてるんだよ。話によっては、都合よく元犯罪者ってこともあるんだけど。十手持ってて、これがまたかっこいいんだ。あ、時代劇では普通に持ってるんだけど、実際にはやたらと持ち歩いたりは出来なかったらしいんだよね。房なんかも付いてるんだけど、あれも実は同心とか与力じゃないと本当は付いてなかったらしいし。でも、ビジュアル的にはあれがあった方がいいんだよねえ。そんでさ、あ、十手お土産で売ってるかな。買っちゃおうかなあ。でね……」 「心菜さーん。ストップストップ。聞いた私がバカだったけど、その説明いつまで続くの?」 「あ、ごめん。あははー。ついつい語り出すと熱くなっちゃって」 「でさあ。心菜……、よく知らないんだけど、イメージ的にその岡っ引きって男じゃない? その格好したいの?」 「だってさー。時代劇で見てると素敵すぎて。どうしてもその格好してみたくなっちゃうんだよ。というか私、町娘の格好もいいなって言ったよね?」 「言ってたけど、もう今、着てるやつなんじゃないの?」 「全然違う! 私が言ってるのはちゃんとカツラもしっかり被ってこんな現代人みたいな着物姿じゃなくて、どっからどう見ても江戸の人みたいになりたいってことだよ!」 「そ、そうか。へー」  楓が引いてる。さすがに喋りすぎたみたいだ。ちょっと反省。  が、私の情熱は止まらない。聖地に来て興奮しないとか無理だ。 「大学生になったらバイトでお金を貯めて自分の力でもう一回来て、今度は思う存分好きな衣装を着てやる!」  ぐっと、拳を握りしめる私であった。
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