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「だけど、せっかく修学旅行で来れたんだからさ、せめて目一杯楽しんだら? ずっと来たかったんでしょ?」
楓はそんな私をスルーしてクールに話し掛けてくれる。だけど、確かにその申し出は当たってる。
「そうだね! ありがとう!」
「うんうん。ちゃんと付き合うからさ。自由時間も限られてることだし」
「ああっ! そうだった! ぼんやりしてる場合じゃない! もっとがつがつ見ないと!」
私は鼻息を荒くする。
「さっきからがつがつしまくってる気がするけど……」
ため息を吐いて呆れながら、楓はしっかりと付き合ってくれる。持つべき者は優しい友だ。そんなことを思っていたら、
「ん? あの人だかり、なんだろ」
楓が指を指す。視線を向けると私たちが行く先になんだか人が集っている。
「なんだろう? 行ってみよう!」
「ちょ、心菜! 着物で走ると危ないって!」
そういえば、辻チャンバラもあるとか入り口に書いてあった気がする。そういうイベントかもしれない。生でチャンバラが見られるのなら見逃すわけにはいかない。
慌てて向かった先でやっていたのは、
「……!?」
時代劇の撮影だ。
大声で叫びそうになってしまったのを根性で飲み込む。
撮影中に声なんか出したら撮り直しになってしまう。私のせいでそんなことになったら困る。
「どうしたの? 何やってるの?」
「しっ!」
追いついてきた楓も、ひょこひょこと人垣の向こうをのぞいている。
「え、撮影中?」
「そうみたい」
私たちはひそひそと声をひそめながら話す。
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