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第二章 気持ち裏腹(ニコロ)
1
みちるは、暖かい温もりの包まれて至福の気持ちで眠りから覚めた。
夢の中でロレッタの豊満な胸に抱かれていたので、現実に引き戻された感覚はみちるにはなかった。
みちるは、小さく欠伸して長い月白の睫毛を押し上げる。
夢心地のみちるは、全身を包み込む生暖かさは確かなので、彼女自身夢の続きとして捉えつつ視線を上げた。
ロレッタとよく似ている、美しく整った顔立ち。
規則正しく呼吸をしているニコロは、自分の両腕でみちるを抱きすくめていて、二人はぴったりと寄り添っている。
みちるは、ロレッタではないニコロに気づき、恥ずかしさと一緒に深い眩暈を覚えていた。
一人で寝ていたはずなのに。
寝たあとの記憶は曖昧で、みちるの頭は混乱を極めていて内心ぼやく彼女の顔色は優れない。
みちるが俯いて下唇を噛み締めていたら、ニコロが起きたのか彼女の髪を優しく梳く。
「……起きたみたいだね。久しぶりに俺もよく眠れたよ」
ニコロは、みちるの髪を長い指で弄びながら言う。
「……ニコロ」
「深夜、魘されていたみちるが寝ぼけてロレッタ姉さんと間違えて、俺をベッドへ引きずり込んだんだよ。大丈夫、俺はみちるの貞操に興味はないし添い寝だけだって」
細かく震え出して何か言いかけたみちるの言葉を遮り、ニコロは宥めるように言う。
「そ、それならいいけど。迷惑かけたみたいでごめんね。ニコロってロレッタが言った通りみたいだけど、女の子である私といて平気なの?」
ニコロが精神的に疲労していると、女性が近づけば近づくほど僅かながらも肌が粟立ち、顔色が悪くなること。
ロレッタがニコロの複雑な事情を話していたことを思い出したみちるは、心配そうに問う。
「みちるは、確かに女の子だけどね、俺が苦手な豊満で色気ある女性とは違いすぎている。それにみちるって独自な甘美な香りがしていて、嫌悪感なんて一切ないよ。それよりも癒されてしまって、俺が心地よく眠れたくらいにね」
「そ、そう。なら良かった。ニコロは、ロレッタが言うように思ったより対応力や度胸が座っているのね」
密着しているわりには、ニコロには不思議と嫌悪や男を感じられない。
みちるは全裸で、ニコロはバスローブ姿で僅かに肌がはだけている。
それなのにみちるの警戒心は解けていて、身体の震えも止まっていた。
みちるにとってまるでロレッタに接している気分で、とても癒されるのを感じていた。
「報道カメラマンだから、そのくらいないと」
ニコロもみちるに最初に見せた警戒心や嫌悪を一切見せることなく、気さくに話してくる。
「報道カメラマン……。さすがはロレッタの自慢の弟ね」
ロレッタと同じくカメラマンを生業にしているニコロを仰ぎ、みちるは感心したように見つめた。
みちるの美艶な銀灰色の瞳が、ニコロを捕らえる。
一瞬、みちるにじっと見つめられたニコロは、戸惑いを見せたが朗らかに笑った。
「……カメラ好きは血筋かもね。パオロ兄さんも息子のロレッソも趣味はカメラだし」
ニコロの言葉に、みちるは薄々知ってはいたが、ロレッタにはもう一人の弟がいることに我に返った。
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