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ロレッタよりも九歳下で、独身のニコロと違って、その上の兄は結婚していて息子がいる。
みちるは、その家族を実際に見てみたいと感じていた。
ニコロと同じくもう一人の弟も息子もロレッタとそっくり?
みちるの好奇心は疼いていた。
「……私も兄弟が欲しかったな」
みちるは、ニコロに羨望の眼差しを向けた。
「みちるにも、義理でもいるだろう?」
「いるけど。私にとっては家族ではないもの」
みちるは、思わずニコロの視線を逸らして俯いてしまう。
ふとニコロが纏うバスローブから見える無駄のない頑健な胸板に気づき、みちるは息を詰まらせている。
「みちるは、バカなことを言っているね。君がフォード家の末娘であること、今も変わらないよ」
「そうね。今も変わらないけど……。でもね、私はニコロが羨ましいの。自分自身が心から慕える姉や兄がいて」
「不意に部屋から姿を消したからって、みちるの義理の姉のジョアンが凄く慌てていたみたいだよ。俺は仕事柄モデルのジョアンとは顔見知りだけど、あの子は駆け引きをしない素直でいい子だよ」
「ええ。ジョアン姉様はいい子よ。でも私に構うようになったのは、ロレッタに頼まれたから。ロレッタはもういない。ロレッタは私のすべてだったのに」
みちるは、ロレッタを思い浮かべてしまい目尻が熱くなり、涙を必死に堪えながら掠れた声音で言い募った。
凪いでいた心が次第に高まり、残酷な現実にみちるの小さな胸は潰れそうだった。
「みちるのロレッタ姉さんが特別な気持ちはわかるけど泣くなよ。俺だって泣きたいのに」
ニコロは、少し眉間に皺を寄せて言うが、みちるの頭を優しく撫でてくれる。
「だ、だって、私にはロレッタしかいないの」
みちるの身体は、再度小刻みに震えて今にもこぼれそうな雫を瞳には堪えて切なげに言う。
「それは違うだろうが。みちるには実の母親が生きている。俺には両親共々もういないけどね」
「い、生きていないと一緒よ! 絶対に、母さんとは一生会えないわ。会わせてくれるはずないもの!」
みちるは、ニコロの現実に胸が痛んだが、自分自身に降りかかる先行きを堪えることが出来ずに、一筋の涙を頬に伝わせて毒づいた。
「またバカなことを言っているね。母娘を一生引き裂くなんて、そんなのありえないよ」
「ありえるのよ! でも、もいいの。あやまちの子である私がそばにいても、母さんが傷つくだけ。彼女の幸せのためには、私は会うことを諦めることが出来る。そうよね。今更何をぼやいているのかしら。バカね」
みちるは、我に返り涙が引っ込むのを感じた。
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