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ニコロには、暗闇の中でも別人ではないと考えてはいたが、探していた人物である確証はなかった。
自分を見つめた美艶な銀灰色の瞳の持ち主、その瞳に姉に見せて貰った写真の中の少女、みちるだと、ニコロはようやく確証が持てた。
みちるは、目を瞬かせてニコロがきこえるくらいにゴクリと喉を鳴らす。
「……ロレッタ?」
一呼吸置いてみちるが呼んだ名は、ニコロのものではない。
ニコロと同じ大柄で似ていたが、ロレッタは女性であり彼の異母姉弟、大人になった二人は曲線的にも明らかに違う。
「……」
ニコロは、大きく溜息を吐いて何か言いかけたその時。
背後にいるニコロの手が解けるくらい勢いよく反転したみちるは、躊躇うことなく細い両腕を伸ばして太い首へしがみついてきた。
「!?」
ニコロは、あまりにも久しぶりな女性特有の柔らかな感触に瞠目する。
自分の姉と兄の妻以外ここまで女性を自分に密着させることは忌まわしい騒動があってから、ニコロとしては出来る限り避けていた。
だが予想外なことに、呆気としたニコロの中でいつものように湧き上がる嫌悪感は一切なかった。
「ロレッタ、生きていたのね! いつものように、私を迎えに来てくれたってことね!」
感極まったみちるの声が、深夜の静寂な空間に響く。
大人の男性であるニコロに抱きついた以上、ロレッタではないと気づくはずだが、みちるは必死になって彼にしがみついてくる。
残酷すぎる現実に、目を背けていたい気持ち。
ニコロには痛いほどわかったが、このままではまずいことくらい彼自身わかっている。
初春の凍てつく海の中、鋼のように鍛え込まれた自分ならばいつものように問題はない。
みちるの華奢な肢体が別物であることは、明らかだった。
「……違うよ。俺はニコロ。ロレッタ姉さんの弟」
ニコロは、淡々と言う。
「……ニコロ?」
みちるは、ニコロの言葉を繰り返しゴクリと生唾を呑む。
瞬時に大きく震え出したみちるは、ニコロの太い首に回していた自分の両手を解くと、すぐさま後退りした。
二人に距離が出来、ニコロの目にみちるの上半身があらわになる。
わずかな月光に照らし出されたのは大人びた女性とは違い、いかにも少女らしいほっそりとした裸体だった。
ニコロの両手にすっぽりとおさまりそうな形のいい膨らみが、波間に揺れている。
月明かりで人魚姫か美の女神のような美しさに見えるが、みちるは妙に痩せすぎて骨が浮き出ていた。
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