プロローグ

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プロローグ

 プロローグ ~焦れる想いとともに胸踊る夏。  夜空には、華麗な花火が咲き乱れる。  それは全身に疼く忘れられない遠い記憶〜 地上界は、西洋大陸と亜細亜大陸、その間の境界線を隔てて二つに分かれていた。 二つの大陸は、見事に発展を遂げた文明の開花とともに、船や飛行機により行き来は出来ている。 だが境界線はとても不安定で、度々様々な事故を起こしてはいた。 西洋大陸は、緑溢れた広大な陸地に多くの国々 が発展している。 亜細亜大陸は、二つの顔を持ち、東は海に囲まれた小さな島々の中に国々が発展し、西は大きな砂漠の中に囲まれた大地の中で多種多様の国々が点在していた。 ジェシカと道夫は、カリムの今は亡き父王はの学友である。 ジェシカの祖国、西洋大陸にあるアルビオン王国にある大学時代の親友だった。 ジェシカと道夫は、彼女の親族から猛烈に反対されて駆け落ちした。 結婚したそのあと、夫の道夫の祖国である亜細亜王国の東に位置し、島国の中では発展している大和国で暮らしていた。 その頃のカリムは、亜細亜大陸の西にある砂漠の小王国の王子で、西洋大陸にあるアルビオン王国の大学院へ通っていた。  祖国のファルーク小王国でクーデターが勃発し、カリムは世継ぎの君でありながら帰れなくなってしまう。 父王の薦めもあってカリムは、しばらくの間同じ亜細亜大陸でも祖国から遠く離れた大和国で、身を隠して過ごすことを余儀なくされた。 広大な砂漠の国の王子であるカリムにとって、 亜細亜大陸の東側の中では発展しているが、小さな島国の暮らしは警護は厳重でも一般家庭で過ごす以上、彼にとって不満だらけだった。 カリムは、異文化交流を兼ね、複数の他国の大学へ通っていた経験上自活はしてきたので、祖国の厳格な事情があり諦め、彼は自らを抑制して身を隠して日々を過ごした。 そして、カリムは道夫とジェシカの娘であるみちると仲良くなった。 父親の道夫は、捨て子なので出生が不明で天涯孤独。 亜細亜大陸特有の黒髪だが、艶美な顔立ちに長い睫毛は月白、瞳は銀灰色で謎めいていた。 娘のみちるは、アルビオン人の母であるジェシカの金髪と父親の睫毛の月白と銀灰色の瞳の持ち主である。 みちるは、十九歳のカリムより四歳年下で幼いが、彼にとって鮮烈で魅惑的な存在だった。 カリムが相手にしてきた色気ある大人の女性とはほど遠いが、王子である彼に諂うことはなく、てらいのない笑顔を見せるみちるはあどけなくて幼い。 みちるは、印象的に大人しげな雰囲気だが、父親と似て艶美な顔立ちをしていて奥ゆかしく、とても瑞々しい感性を持っている。 カリムは、みちる特有の甘美な香りやお互い響き合う心身とともに魅縛されていく。 花火大会の夜。 カリムは、みちると初めて手を繋いだ。 みちるの花水木が咲く浴衣姿に目を奪われたことは、カリムは今でも覚えている。 弾む鼓動、カリムの心の真ん中で恋の炎が揺れる。 みちるの両親が気を利かせて、その夜二人っきりにしてくれた。 カリムは、商店街を抜けたところにある小さな公園へ彼女を誘う。 花火が打ち上がるまでは、まだ時間がある。 みちるは、美艶な銀灰色の瞳を瞬かせて、ピンクに頬を染め、カリムの提案に戸惑った。 一呼吸したあと、絡ませた細い指をぎゅっと握り返し、小さく頷いてくれた。 公園は、忙しなく膨らんだ人混みとは違い、誰もいない。 みちるとかさねていく、何気ない穏やかな日々は優しすぎて、カリムはとても切なく想う。 カリムにとって、それが何よりも大事な宝物のように感じていた。 隣に咲くのは、空に舞う艶やかな大輪の花とは違う。 何よりも愛おしい、小さな可憐な花。 誰よりもそばにいたい。 自分の将来の相手。 王妃として切望する気持ち。 その夜、カリムは自分の中で燻る甘い恋の味や所有欲を噛み締めて、みちるに告白したーー。
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