電柱の少年

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普段は恋愛小説などを書いている私ですが、たまには違うものを描いてみたいということで、私の身に起きた100%実話のホラーを一本書きます。 なお、ホラーと言っていますが、まったく怖くありません。あまり期待しないようにしてください。 あれは5年ほど前の7月、私は当時、会社の社員寮に住んでいました。 時刻は午後6時ごろ、季節は夏だったので、そろそろ日が沈むころあいです。 夕食のために弁当を調達しようと私は近所の弁当屋に出かけました。 弁当屋があるのは裏手にある小さな商店街(店が5、6軒固まっているぐらい)で、そこへの道は普段はあまり人通りがない静かな道です。 道幅は3メートルぐらいですから、車が一台、やっと通れるぐらいです。 道の左側には高さ2メートルぐらいのコンクリートの壁と電柱が何本か、右側にはうっそうとした竹林が密集しています。 その道を一人で歩いていると、電柱の影で一人の少年が泣いていることに気が付きました。 背格好は小学校三年生ぐらい。ベースボールキャップをかぶっているせいで顔はよく見えません。 声は上げていませんでしたが、少年は泣いているらしく、時折、顔の前で右腕、左腕を交差して涙をふく素振りをしています。 それを見た私は「はーん、お母さんに怒られて外で反省していなさいと言われたんだな」と思いました。私も小さい頃、何回か同じことを母にやられたことがあります。 「がんばれよ、少年」と心の中でエールを送りながら、私はその少年の横を通り過ぎました。 そして、ふと気になって(時間にしたら1.2秒ぐらい)、私は少年のほうを振り返りました。 少年はいませんでした。消えてしまっていたのです。 少年が消えた理由として考えつくのは①2メートルある壁を2秒で登った、か②竹林に走りこんだ以外はないのですが、私より背の低い小学生ぐらいの背丈で①はありえませんし、何の音もしなかったことから②もありえません。 結局、私はこの世ならざる者を見たということになるのですが、不思議と全く怖くありませんでした。ただびっくりしただけです。怖くなったのは後から思い返してみてからです。 幽霊というのは「あぁ、私は今、幽霊を見ているな。怖い!」というものではなく、後から考えてみるとあの現象はやはり幽霊と呼ぶしか合理的な説明がつかないというものなのかもしれません。 あの少年は今でも電柱の影に立っているのでしょうか。それだけが気になります。
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