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3話 道真公との出会い
「お父様、準備出来ました」
頭を抱えている俺をよそに、屋敷から一人の女性が出てくるが……。
その声……何処かで聞き覚えがある声な気がした。
その着物姿の女性と、目が合う俺。
「……あっ!」
思わず驚愕し、手を口にする俺。
良く見ると、相手も俺と全く同じ状態の仕草をしている……!
「あ、亜子⁈」
「り、龍之介⁈」
「どうしてここに⁉」
はもる俺達の声。
……そう、着物姿の女性はなんと驚いたことに、亜子だったのだ!
「どうしたんだい?」
その時、道真公は怪訝そうな顔をし、亜子の声をかける。
「い、いえ? ほ、ほら、お父様が触れた場所に梅の花が咲いているので驚いているだけです……」
ほ、ホントだ……マジでなんなんだよこの人?
よく見ると、道真公の周囲に雀やイタチなどの小動物がわさわさと集まってきてるしさあ。
……そ、そういえば、道真公は動物や赤子に好かれやすい体質だったとかなんとかを色んな情報で見たな……。
「ふむ、たまたま早咲きしただけだろう。最近温かいしな。では着替えてくるので先に牛車に入っていなさい」
「は、はーい!」
元気よく返事し、素早く牛車に移動する亜子。
当然俺もソレについていく。
う、うーん……と、とりあえず道真公周囲の超常現象はさておいて、道真公や護衛の皆さんには俺の姿は見えていないようだ。
とりあえず、牛車の中で俺達は話をしていく。
「なあ? こりゃ一体どうなっているんだ?」
「私もよくわからないけど、この状態でさっき目が覚めた状態なのよね」
「な、なんだって! そこくわしく!」
俺はずいっと、亜子の前に進みでる。
「あ、あの大変申し訳ないけど、龍之介は私から見ると首から上しかうっすらと見えてない心霊写真状態なんで……」
来るなと言わんばかりに、両手を前に突き出す亜子。
「マ? そりゃ気持ち悪いな。てか何で俺だけこんな状態なんだろうな?」
「私も何でこんな状態なのか分からない……。とりあえず、今の現状だけ話しとくね」
亜子はポツリポツリと話しだす。
「私が観世音寺で倒れて、目が覚めたらね。何故か、私は道真公の一人娘になっている状態だったのよね」
両手を動かし、白張りの狩衣をヒラヒラとさせる亜子。
頭には黒い烏帽子を被っている。
うん、ここら辺は貴族の娘って感じがするな。
しかし、流石俺の彼女。
何を着ても似合うし、大変可愛らしい。
……うんうん!
ちなみに狩衣とは、当時の貴族の運動着みたいなものだそうな。
道真公も、きっとこの服に着替えに戻ったのだろう。
「平安時代、中流貴族生まれの道真公。彼は、とても優秀な学者であり政治家でね。遣唐使の廃止を進言したのもこの人なのよね」
「うん、天満宮で先生が話していたね。最終的には当時の政府の最高峰である右大臣になったんだよな」
コクコクと頷く俺。
「ところがね、つい最近なんだけど宇多上皇様は何故か政治から一線を退いてしまうの」
「あ……ということは」
「そう、左大臣である藤原時平は、新しく変わった醍醐天皇に、『道真公に謀反の動きあり、しかも宇多上皇も関わっている』というような話をしたらしいのよ」
「ああ、それで激おこの醍醐天皇は道真公を左遷して福岡の太宰府にってことで、今道真公達はの京都から移動しようとしてるわけか……」
納得がいったけど、でも、なんだかなあ。
「紅姫? 誰か中にいるのか?」
牛車の近くで、道真公の優しい声が聞こえてくる。
ちなみに紅姫とは、菅原道真公の娘の1人らしい。
「えっと……此処が名残惜しいので短歌を読みあげていたのよ、お父様」
亜子は機転を利かしたウソをサラリと述べる。
こ、これは上手い……というか、ズルイ。
「す、すまないお前達には迷惑をかけるな……」
流石の道真公も愛娘にはかなわないのか……牛車の中に入り、めっさ謝っている。
とりあえず、俺は小声で亜子に「遠くで見守っているから」とだけ伝えて、急いで牛車の外にでる。
というのも、不思議な力を持っている道真公だと、なんか俺のこと気が付いてしまいそうな気がしてさ。
それに亜子と違い、実体を持っていない俺。
正直出来ることがない……。
複数人の護衛と共に移動していく牛車を見ながら、俺は物思いにふける。
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