7人が本棚に入れています
本棚に追加
1話 修学旅行は大宰府天満宮
俺の名前は前田龍之介、中学3年生。
……季節は紅葉が華麗に舞う秋……。
俺達は故郷の京都から、福岡県大宰府市に修学旅行で太宰府天満宮に来ていた。
ここは、俺ら受験生に大人気の【学問の神様で有名な道真公が祭られている場所】だ。
自由時間の今、俺達はそこから西側に移動し、観世音寺の政庁跡の道沿いを彼女と二人で歩いている最中だったりする。
政庁跡とは、道真公が福岡に左遷され政治を行っていた場所で、今では、公園っぽい広場になっており、老若男女の憩いの場になっている。
その証拠に親子連れが犬を散歩している姿が散見される……ってアレ?
ふと気が付くと、側にいたはずの亜子がいない?
……一体何処へ?
俺は慌てて、周囲を見渡す。
「っておい! お前、なに見知らぬおばあちゃんに話しかけてんの?」
俺は思わずツッコミの言葉を吐く。
人のよさそうな白髪の老婆に、ペコリと頭を下げる亜子。
話が済んだようで、彼女はちょこちょこと子犬のように元気よく小走りで、こちらに向ってくる。
小麦色のマフラーと、陽光で薄い茶毛に染まったポニーテールがまるで尻尾のように揺れている。
コラコラ可愛らしい柴犬かお前は。
「あ、いや。なんで今年の紅葉はこんなに黒ずんでいるのかなって思ってね!」
苦笑いしながら、頭上の紅葉を見る亜子。
いや……確かに気になるけどさ。
いきなり他人に話しかけていく、コイツのアクティブさと見境なさは本当に凄い。
ここらへんは本当に、柴犬と例えるのは適切な例だと思う。
亜子の澄んだ真っすぐな茶色の瞳と、きりっとした眉毛とかがもう、まんまだしね……。
照れくさそうにはにかんで笑うその笑顔がたまらなく素敵で、清岡亜子と付き合って1年になるが、最近その魅力にようやっと気が付いた。
俺がそんな事を考えているのが分っているのか、亜子はニヤニヤとにやけながらこちらを見ている。
「あ! で、何で紅葉は黒ずんでいたのかな?」
俺は照れを隠す為に咄嗟に話を続けることにした。
「え、んー……。何でも今年は暖かくて天気がいい日が続いたので、葉が枯れてああなったらしいよ?」
そんな俺の態度に不服そうに眉を潜め、でも説明してくれる亜子。
「そうなんだ。でも何で急に紅葉が綺麗になったんだろうな?」
「あ、それね! 今日結構雨降っていたじゃん!」
確かに、亜子が言うように朝からサアサアとまとまった雨が降っていたので、バスの中でクラスの皆とブー垂れていたのを俺は覚えている。
幸いな事に今は雨は上がり、雲の隙間から太陽が真上から日の光を浴びせているが……。
「でね! 雨水を吸った紅葉の木々が、元気を取り戻して綺麗になったんだって!」
俺はチラリと亜子を、特に陽光が降りそそぎしなやかに揺れる柳髪を見つめる。
「へ、へへ――――――!」
俺の今の心情を知ったか知らないのか分からないが、亜子は童のように無邪気に笑い、俺の側から離れていく。
黄・紅・茶色の無数の落ち葉が舞い落ちる中、両腕を広げ、くるりくるりとゆっくりと回転し、まるでバレエダンサーのように優雅に踊る亜子。
硬いアスファルトを次第に離れ、次第に木々の茂る大地に近づいて行く亜子。
亜子が遠くに離れていき分かった事だが、なんと遠くに虹がでていた……。
それらの様子見て俺は思わず、スマホを取り出す。
……ああ、本当に綺麗だ。
お蔭で最高の一枚が撮れた。
「あっ!」
俺は思わず叫ぶ!
何故なら次の瞬間彼女の姿は消えて、い、いや……これは消えたんじゃない!
「亜子!」
俺は叫び慌てて、彼女の元に走っていく!
木々の間を見ると、結構な段差があり、なんと驚いた事にその下は田んぼになっていたのだ!
俺は急いで亜子の元に駆け寄る。
く、くそっ! 俺がちゃんと見ていればこんな事には。
い、いや、そんな事を今は悔いている場合じゃない!
「亜子! おい! しっかりしろ亜子っ!」
俺は亜子を抱きかかえ必死に亜子に呼びかける……。
最初のコメントを投稿しよう!