3人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言えば、私は後藤君とファストフード店にいたのだった。辺りを観察しすぎて、すっかり後藤君の存在も、自分が今いる場所も忘れていた。
「喧嘩について」
「喧嘩?」
私がこくりと頷くと、後藤君が早速ドリンクのストローを口に咥える。それから辺りを見渡して、可笑しそうに小さく笑った。
後藤君は、最近できた彼氏だ。新型コロナウイルスが流行っている中で、彼氏を作るのはどうかと自分でも思ったが、後藤君に告白されて、特に振る理由も無いから付き合うことになった。後藤君のことは、特に好きではないけれど、一緒にいて安心する。どちらかと言うと、大袈裟に言えば後藤君は結婚相手に最適な人間なんだと思う。恋愛についてはよく分からないけれど、人々は恋愛と結婚は違うと言っているし、これがきっとそうなのだろう。
「海上さんって面白いよね」
「そうかな?」
「うん、俺はそういう所、好きだよ」
私が口に運ぼうとしていたポテトをポロリと落とすと、それを見て後藤君がまた顔を覗き込む。
「どうかした?」
「……後藤君が急にそんなこと言うから」
「ああ、ごめん」
後藤君はへらっと笑みを浮かべると、私は膝上に落ちたポテトを摘まみ、口に運ぶ。
後藤君とは、今のところ喧嘩はしたことが無い。カップル同士なら、それは関係が良好だからと思っていいと思うけれど、お互いに興味が無いからという理由にも取れる。そもそも、後藤君は私のことを好きなのかも分からない。好き、とは言ってくれるし、告白もしてくれたからそうだとは思うけれど、今まで後藤君と接点が無かった分、不安になる。
「海上さんって、たまにじっと周りを見て、何か考えてるよね」
「ああ、癖で」
「喧嘩について、どういうこと考えてたの?」
「……特に面白くないんだけど」
「聞きたい」
最初のコメントを投稿しよう!