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研究室の集まりが終ると、彼女はいそいそとアパートの自室に戻ってきた。机の上には、顕微鏡や小さな植木鉢が所狭しと並んでいる。椅子に腰掛け、シャーレにぽつんと入っている光の粒に声をかけた。
「もしもし、フォスター人さん」
光の粒から、いつものように返事が聞こえた。
「もしもし、地球人さん」
彼女がこの不思議な粒を拾ったのは、三年前のある日のことだった。
大学の近くの山で植物採集をしていると、誰もいないはずなのに、草むらから話声が聴こえてきた。目を凝らすと、青色に輝く砂粒のような物が落ちている。アパートに持ち帰って顕微鏡で観察し、彼女は我が目を疑った。粒の正体は、超小型の宇宙探査機だったのだ。
探査機の通信機能を使って毎日やりとりする内に、いろいろなことが分ってきた。この探査機を造った青年は、天の川銀河のペルセウス腕にある、フォスターという衛星に住んでいた。彼は大学で宇宙生物学を専攻していて、授業の一環として、無数の探査機をオリオン腕に向けて飛ばしたのだ。そのうちの一つを、彼女がたまたま拾ったのである。
探査機は映像こそ送れないが、お互いの音を瞬時に届けられる。また、未知の言語も正しく翻訳する機能がついていた。おかげで二人は、まるで相手が目の前にいるかのように、他愛のない話で盛り上がることができるのだった。
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