14.執務官の訪問

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14.執務官の訪問

それはノアと二度目に会った翌日のこと。 いつも通り仕事を終えて食堂に降りて行った私の腕を、待ってましたとばかりにヴィラが捕まえる。メイクの研究でもしていたのか、ヴィラは左半分は蛍光カラーの派手な化粧、右半分はエッジの効いたパンク系の化粧をしている。 「おはよう。良い顔だね」 「あんがとね、リゼッタに会えてよかった!」 やたらと上機嫌な彼女は私に座るように促した。私はトレーを机に置いて椅子を引く。今日は小さなワッフルが三枚とクリームチーズといった軽い朝ごはんだ。オレンジジュースに口を付けながらヴィラが話し始めるのを待つ。 「実はさ、聞いた話だと昨日王室の執務官が来たって」 「………え?」 驚いてグラスから口を離す。 王室ということは、カルナボーン王国のルーシャ家に仕える人間だ。すぐにシグノーの顔が頭に浮かぶ。どうしてそんな人が娼館なんかに?たしか王室で給仕する人間は規律の問題で、そういった場所に出入りすることを禁じられていたはず。 「ここは会員制でしょう?王室に関係する人間が来るなんて、」 「ええ。風営法の取り締まりで来たらしいけど、仕事で来たくせにヤることはしっかりヤって帰ったらしいわよ」 「そうなんだ……」 「信用の認定も継続だし、もしかしたら給料上げるかもってナターシャが言ってた!」 嬉しそうにヴィラは歯を見せて笑った。法律の取り締まりで来たのなら、シグノーは関係ないだろう。安心してパンケーキにフォークを刺して口へと運ぶと甘い香りに頬が緩んだ。 ヴィラはもう食べ終わっているのか、手持ち無沙汰な様子で私の皿を眺めている。「何か分けようか?」と聞くとダイエット中だから、と断られた。十分スレンダーな彼女の美意識の高さに感心する。 「それよりさ、ノアとは順調?」 「……昨日二回目の指名があったの」 「おお!来たんだ!どうだった?やっぱり上手い?」 まだ最後まで致していないことを伝えると、ヴィラは飛び上がらんばかりに驚いた。 「嘘でしょう?もしかして勃起障害…!?」 「声が大きいわよ!そんなんじゃないし、」 「じゃあ何で?今までノアがそんな変な行動取ったなんて聞いたことないわよ、どうなっているの?」 「私だって知りたいの。何を考えているか分からない…」 謎の多いノアについて情報収集をしたかったけれど、ヴィラ曰くノアから指名を受けた娼婦は居ないらしいし、彼を攻略するための手掛かりは掴めそうにない。 目を閉じて#唸__うな__#る私を見かねたのか、彼女は「一度だけ相手した女の子が知り合いで居る」と言い出した。シェリーという名前の女らしく、年齢は私やヴィラより上で「グラマラスな体型で中年のオヤジに大人気」と説明された。 食堂を見渡しても見当たらなかったようで、ヴィラに引っ張られて階段を登った。 「いきなり部屋に行くのって失礼じゃない?」 「大丈夫よ。彼女けっこう遅くまで起きてるし」 言いながら扉をノックし、部屋の中からは可愛らしい声で返答があった。待つこと数秒でノーブラにキャミソールを着た女が姿を現す。なるほど、かなりグラマーな容姿だ。 「ごめんね、シェリー。彼女は新人のリゼッタ」 「……こんにちは」 「お疲れ様。どうしたの?」 「実はリゼッタがノアから指名を受けてるらしくて、彼のこと知りたいらしいんだけど何か情報ない?SMが好きとか、おっぱい星人だとか、何でも良いんだけど」 少し考えたあとで、シェリーはその形の良い唇を噛んだ。 「……特にないわ。ノアとは一度切りで私は指名されていないし」 「ちなみにプレイは普通だった?」 「普通。部屋で二回、お風呂で一回」 「じゃあ、どんな体位で…」 「ごめんなさい。もう眠たいの」 セクハラのような内容を聞き出そうとするヴィラに向かって、シェリーはピシャリと言い放った。私は場の空気がピリついたのを感じて押し黙る。シェリーのアーモンド型の目が真っ直ぐに私を捉えた。 「ノアは沼よ、ハマったら抜け出せない」 それは明らかな警告で私の心を冷やすには十分。
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