33.ダブルデート

1/1
前へ
/82ページ
次へ

33.ダブルデート

「なんで貴女、私の服を着ているのよ?」 大きなリボンを頭に付けたお姫様のように可愛らしいピンク髪の女は開口直後にそう言った。ノア曰く従妹だという彼女は名前をアリスというらしい。 アルカディア王国での初めての夜が明けて、軽い朝食をノアと共に食べた後、買い物に行くということで宮殿の入り口まで降りて行った。そこで待っていたのが、このアリスと昨日会ったウィリアムという男だ。ウィリアムは余程私を嫌っているのか、視線はどこか遥か彼方を見ている。 「ごめん、服を借りたって言うの忘れてた」 「ていうか誰?ノアの知り合い?」 「ああ。こちらはリゼッタ、俺の彼女だよ」 「………は?」 この反応は見たことがある。つい昨日、ウィリアムも全く同じ反応をしていたのだ。 「初めまして、リゼッタ・アストロープです…」 「彼女って何?いつの間に…!」 私の挨拶を完全無視で食ってかかるように掴み掛かるアリスを、ノアは落ち着くように#宥__なだ__#めている。 一人沈黙を貫くウィリアムの視線を追うと、その先にはパン屑を分け合う鳩の姿があった。意外と可愛らしい一面を見て、思わずクスッと笑ってしまうと、気付かれて思いっきり睨まれる。 「仕方ないわね、じゃあ今日はパートナーシャッフルでダブルデートにしましょう。私はノアと行くわ」 「おい、アリス!」 「ウィリアムはリゼッタをエスコートしてあげてね」 「…………」 慌てるノアの腕を引っ張って、アリスは停まっていた車の後部座席に乗り込む。どうやら二台に分かれて向かうようで、必然的に残された私とウィリアムが同席することになった。 「あの、宜しくお願いします」 「………ああ」 昨日のこともあるし、あまり仲良くなれないタイプだとは思うけれど、ノアの大切な友人からの評価をこれ以上落としたくないので頑張らなければ。 ◇◇◇ 「あーん、これも可愛い!ねえノア、どっちが似合う?」 「右の方がアリスの肌の色には合うよ」 「本当?じゃあ買っちゃおうかな~」 上機嫌で服を選ぶアリスは、熱々の恋人同士のように試着する度にノアの感想を仰いでいる。ノアは表情を崩すことなく付き合っているが、隣に座るウィリアムは完全に退屈しているようだった。 「リゼッタはどう?良いのあった?」 「えっと…まだ決められなくて、」 ノアに声を掛けられて私は慌てる。 アルカディア王国はファッションの面でも、カルナボーンよりかなり進んでおり、未だに貴族たるものドレスというカルナボーンに比べるとかなり女性の服装は自由が利くようだった。布地も軽いものが多いし、デザインも豊富だ。 街を歩く女性たちの中には、カルナボーンでは滅多に見ないようなパンツスタイルの者も居る。正直なところ、どれも魅力的で目移りしてしまって決められない。 「一緒に選ぼうか?」 立ち上がって側に来たノアの手が、私が手に持っていたハンガーを取り上げた。落ち着いたプラム色のワンピースは前開きで貝殻のボタンが可愛らしいと思った一枚。 「いいね、これ買おう。あとリゼッタにはもう少し明るい色も似合うと思う」 言いながらノアはあちこちから様々な服を選んで来る。最終的に店員さんも巻き込んで、大規模な試着大会となってしまった。 「全部似合うから、どれを選ぶか迷うね」 「たくさん着させていただきすみません…」 店員に頭を下げながら、ふと視界に入ったアリスはかなり怒った風に見える。無表情のウィリアムと並んだ姿は恐ろしい組み合わせだった。早く店を出なければ、とあたふたと試着を終わらせた。 結局合計四つもの紙袋を車のトランクに詰め込み、昼食を食べにレストランへ入った時には少し疲れも出ていた。相変わらずアリスはノアにべったりなので、服の礼を短く伝えたきりであまり話せていない。 「あの…何をご注文なさいますか?」 「コーヒーとラザニア」 メニューを見ながらウィリアムに問い掛けると、ぶっきらぼうな答えが返って来る。隣のテーブルではノアとアリスがパスタの種類で揉めていた。少しだけ羨ましく思いながら、私は再びメニューに目を落とす。 注文を取りに来たウェイトレスにオーダーを伝え終わると、アリスが私の名前を呼んだ。 「ねえ、リゼッタ。ノアのどんなところが好きなの?」 「……え?」 「恋人同士なら言えるでしょう?」 「そうですね…」 ノアの方を見るとニコニコとご機嫌な顔で笑っている。 「私はノアの相手を尊重できるところが好きです。自分よりも相手を思いやるなんて、なかなか出来ないので」 至極無難な答えを返してしまったからか、アリスは「ふーん」という一言で私の返答を流した。ウィリアムに至ってはおそらく私の話など聞いておらず、目の前のおしぼりを丸めることに集中しているようだった。 恐る恐るノアの様子を見ると、その答えは正解だったのかまだ笑顔を浮かべていた。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

494人が本棚に入れています
本棚に追加