第一話:龍とロボット

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第一話:龍とロボット

 山梨県某所にある武家屋敷、日高家の朝。  窓から朝日が差す。和風な内装の台所のコンロの前。  ジャガイモと人参と玉葱の味噌汁の味を見る機嫌の良さそうな女性。  前髪を切りそろえた長い黒髪、少しふっくらした感じだが美しく温和な笑顔。  服は青い作務衣、体形ががっしりした感じなのは武道経験者ゆえ。  実年齢は五十台。  だが、義理の娘から贈られた龍の血は彼女に二十台の若さを与えていた。  良いお母さん、と言う感じのこの女性の名は日高雛菊(ひだか・ひなぎく)。  夫の裏に君臨するこの家の真の主だ。  「金ちゃ~ん♪ 朝ごはん出来たわよ~♪」  美少女と言っても通じる声で叫ぶ雛菊さん。  「祖母ちゃん、おはよ~♪」  雛菊の呼び声に答えて、台所の手前の食卓の部屋に来たのは少年。  短くツンツンした金髪に白い肌、釣り目の下には隈状の金の鱗。  精悍だが蛇のような爬虫類を連想させる顔付き。  背が高く筋肉質な体を、黄色のシャツの上に黒い学ランと言う服装で包んでいる。  彼の名は黄金馬(こう・きんま)。  日本人と中国人のハーフで留学生、雛菊の孫で日高家の下宿人。  正体は龍、父親とは違いわけあって巨大戦のみのヒーローをしている男。  「はい、おはよう♪ 夏美(なつみ)はまだ?」  「ああ? おばちゃんなら、そろそろ来るんじゃね?」  金馬は部屋にある冷蔵庫を開けて、長めの牛乳パックを取り出し一気に飲み干す。  飲み終えたパックは、目から電撃状の光線を放ち原子分解して片づけた。  直後、竹刀袋を担ぎセーラー服にポニーテールの美少女が食卓へエントリー。  「お母さん、おはよう! 金ちゃんは、ご飯行くなら声かけてよ!」  黒髪ポニーテールの美少女、日高夏美が金馬を責める。  「声かけたけど、おばちゃん自分の部屋ん中で着替えてたじゃん?」  「そうだけど! 後、おばちゃんって言わないで!」  「いや、無茶言うなよおばちゃん?」  金馬にとって、父の妹である叔母の夏美は同い年で同学年である。  学校も同じだが、専攻は別で金馬は巨大戦闘科で夏美は装甲戦闘科。  「そうね、金ちゃんは女心の機微も学ばないとね♪」  雛菊が金馬の父である立磨を思い出して呆れつつ、二人の食事を用意する。  「学校の授業で必須科目にしてくれればやるよ、いただきます!」  「それは自習自得しなさい! いただきます!」  今朝の献立は、ご飯とみそ汁と目玉焼き。  金馬は合掌してから行儀よく食い、夏美はがさつに食らう。  金馬は少なくとも、向かいに座る同い年の叔母からは女心は学べないと感じた。    「「ごちそうさまでした!」」  金馬と夏美が同時に食事を終える。  食事を終えたら夏美が先に席を立ち、洗面所へ向かい歯磨きなどの身支度。  次に金馬が夏美の分も片付け、ささっと台所で食器を洗ってから洗面所へ行く。  「お母さん、行ってきます!」  「俺も行ってきます」  「二人とも、行ってらっしゃい♪」  雛菊が玄関で金馬達を見送る、これが日高家の朝だった。  日高家のある住宅街を出れば、周囲には山林と隕石の落下で放棄された農地。  地方は車などが必須と言うのが実感できる環境の中。  夏美を背負った生身の金馬が、バイク並みの速度で道路を走る。  「おばちゃん! 交通費ケチって、人をバイク代わりにするなよ!」  「いや~、流石は金ちゃん♪ こりゃ西遊記で龍が馬になるのわかるわ♪」  「おばちゃんだって、ヒーローなんだから早いだろ!」  「いや~、事件以外で変身してスーツ着ちゃダメなんだよ~♪」  「腹立つな、俺が変身できないからってマウント取りやがって!」  「その代わり、金ちゃんにはロボがあるでしょ♪」  「気軽に使えねえけどな」  「うん、ご時世的にもうちょっと緩めて貰ってもいいかもね?」  夏美は一瞬だけ、放棄された農地を見やる。  新たな悪の組織、鋼鉄宮廷(こうてつきゅうてい)メタロココの仕業だ。  夏美と語り合いつつ学校へと走る金馬。  やがて金馬は、学校の近くの通学路へと至った。  軽く周りを見回せば、登校する他の生徒達も見えた。  金馬達の眼前に聳えるのは、頑丈そうな仰々しい鋼鉄の学び舎。  二人が通う、山梨県立ヒーロー高等学校である。  金馬が夏美を背負い登校するのは学校の名物。  交通事故に遭いたくないので、周囲は彼らを避けていた。  校門前で金馬が止まると、夏美がジャンプして彼の背から降りた。  「サンキュー、金ちゃん♪」  「やかましい、帰りは自分の足で帰れよな?」  「え~、千円でどう? 身内価格♪」  「いや、タクシーより安いわ!」  漫才をする夏美と金馬、周囲の生徒達は呆れていた。  日高家から学校まで、タクシーを利用すると片道二千円弱だ。  「こら、そこの二人! さっさと校内に入りなさい!」  馬鹿をやっている金馬達を注意する、クール系な美少女の声が響く。  校門の傍に立つ、風紀委員の赤い腕章を付けた青いロングヘアーの眼鏡美少女。  「あ、みのりちゃん♪ おはよ~♪」  「おっす、おはようございます垣花先輩っ!」  「は~っ、あなた達はねえ? まあ、挨拶は良いから早く行きなさいよ」  みのりこと、垣花みのりは手を振り金馬達に登校を促す。  「先輩、さ~せんした♪ 行こうぜ、おばちゃん!」  「だから、おばちゃん言うな!」  金馬達は言い合いつつ、他の生徒達と校内へと入って行った。  「んじゃ金ちゃん、帰りも宜しく~♪」  「今日は下校の時間帯が違うだろ、お断りだ!」  二つ隣の教室へ行く夏美と別れ、自分の教室へと入る金馬。  「おはよ~っす♪」  教室全体を見て明るく挨拶をする金馬。  「あ、おはよ~♪」  「おはよございますの、金馬君♪」  「金さん、グッモーニン♪」  「……おはよう」  青いフレームの眼鏡をかけた、明るい感じの小柄な少年。  赤い髪をドリルの如く縦ロールにしたお嬢様。  白衣を着て、口に飴玉を咥えた褐色肌に緑色のツインテールの眼鏡女子。  茶髪のマッシュルームカットで青い瞳を隠した、細身の白人少年。  金馬とチームを組み、友人付き合いをしている彼らは気軽に挨拶を返してくれた。  友人以外のそれほど仲が深くない相手でも、金馬と目が合えば会釈などを返す。  金馬が、頑張ってクラスの面々に嫌われないように努めている成果だ。  目つきがヤバい、時々電気出てる、爬虫類苦手とか言われてる金馬、  そんな評価をする相手にも、仲間として友好的に接するち金案は決めていた。  職業高校はクラス替えが滅多にない。  なので、最低限の友好関係は構築しないと学校行事や授業に支障が出る。  この学校では、誰もが戦友としてチームアップする可能性があるのだ。  やがて教室が生徒達で埋まり全員が席に着けばドアが開き、先生が来る。  「おはよう諸君、それでは本日のHRを始める」  シワのない上下グレーのスーツに、整った黒い七三分け。  眼鏡が光る真面目そうな凛々しい顔の男性教諭。  金馬達の担任で数学の飯盛先生が注意事項などを伝える。  「中間テストも近いので実技科目だけでなく一般教科の勉強も怠らない事」  先生がテストの事を告げると生徒達は苦い顔になる。  ホームルームが終わり先生が退出すれば次は一時間目。  生徒達が授業の用意をし出した時、教室の黒板の上のスピーカーが警報を鳴らす。  『駒ケ岳上空に侵略ゲート展開、巨大敵性物体の出現率七十パーセント!』  女性的な電子音が敵対する怪獣や巨大ロボットの出現率を上げる。  全国にあるヒーロー学校は地域の防衛組織の拠点を兼ねており、在籍する生徒や教師は防衛隊員の身分と出撃の権限を与えられていた。  「テスト前なのにヤベえな、先行くぜ!」  金馬が真っ先に教室を飛び出した。  「金ちゃん待って!」  次に眼鏡の少年が金馬を追いかける。  「二人とも、お待ちなさいな!」  お嬢様も金馬達を追いかける。  「金馬隊、出撃~っ♪」  白衣の少女がチーム名を言いながら仲間達を追って教室を出る。  「……嘘だろ、行かなきゃ!」  最後にマッシュルームカットの少年が教室を飛び出した。  「よっしゃ、俺達が一番だ! シフトコード、マグナファンロン!」  金馬が叫びつつ、懐から金の龍型ロボットフィギュアを取り放り投げる。  放り投げられたフィギュアが空中で巨大化し、金馬を吸い込んで空へ舞い上がる。  「シフトコード、マグナフェニックス!」  眼鏡の少年も赤い鳥型ロボのフィギュアを放り投げる。  巨大化したロボに少年も吸い込まれて飛翔した。  「シフトコード、マグナロコモですわ~っ♪」  お嬢様は両脇に金のドリルが付いた。黒いドリル機関車のフィギュアを投げる。  彼女が投げて巨大化した汽車に吸い込まれると、汽車も空へと飛び立った。  「シフトコード、マグナタートルで~すっ♪」  白衣の少女はポケットから、緑の亀型ロボットのフィギュアを取り出して投げる。  亀型ロボも巨大化してパイロットである少女を吸い込み、僚機を追い空へ向かう。  「ああっ! みんな待って! シフトコード、マグナウルフッ!」  最後に校庭に出てきたマッシュルームカットの少年。  彼の学ランのポケットを突き破り、青い狼ロボが巨大化して実体化。  少年を飲み込むように機内へと取り込んで空を飛ぶ。  龍、鳥、機関車、亀、狼と五体の巨大メカが空に集う。  コックピット内部は球形で、中央にレーシングゲームのようなシート。  シートの左右の肘掛けには、操作レバーとキーボードのようなスイッチ類。  車ならアクセルやブレーキのペダルがある部分。  ペダルの代わりに。レガース付きのサンダルとでも形容すべき装置があった。  「うおおっ! 力が漲るっ! 皆、宜しく頼むぜ♪」  機体に乗る事で龍の力を取り戻した金馬。  ハイテンションで通信し叫べば、複数のデジタルスクリーンが彼の眼前に浮かぶ。  「チーム組んじゃったし、単位の為だから♪」  眼鏡の少年、明日野(あすの)カナメが笑顔で告げる。  「ほらほら、合体と行きましょう♪」  お嬢様ことメープル・オータムウィンドは笑顔で合体を促す。  「金さん、そろそろ現場に着くよ♪」  白衣の少女、ドロシー・キャンディが到着を告げる。  「敵が来ちゃうから、早く合体して倒そう!」  マッシュルームカットの少年、森山マッシュは焦っていた。  「おっしゃ♪ 合体シフト、マグナデウス!」  金馬が叫び、シートの右側の肘掛け部分のスイッチを押す。  通信とは別のデジタルスクリーンがポップし、作業内容と進捗を表示。  まず金馬が乗るマグナファンロンが変形。  龍の兜を被った武者の頭部を持つコアである胴体部になる。  続いて、マグナフェニックスが変形。  鳥の頭が肩、残りが翼型のアームブレードが生えた左腕になり合体。  マグナロコモは、煙突部分が手甲となった右腕に変形して合体。  マグナウルフは右足、マグナタートルは左足とマグナファンロンに合体。  金馬の龍の力と仲間との絆が一つとなった巨大ロボ、マグナデウスが完成した。  「「マグナデウス、コンバットゴーッ!」」  全員で気合を入れて叫ぶ。  パイロットには戦闘モードへの気持ちの切り替え。  機体的には声紋認証での、武装の安全装置の解除と戦いの準備が整った合図だ。  マグナデウス大地に立つとばかりに、ドシンと地面を鳴らして着地。  青空に開いたブラックホール、その名は侵略ゲート。  敵側である侵略ゲートからも、大地を鳴らして落下して来る。  その存在は銀色の鉄の肌を持つ人型の巨大ロボット。  六十五メートルのマグナデウスとサイズは同じくらい。  赤いジャケットに赤いマスケットハット、フランスの銃士のようなデザイン。  「我が名はメタロココ三銃士が一人、タニアン!」  タニアンが名乗り、マグナデウスに向けてサーベルを抜き突きつける。   「女王ドリル・キャストネット様の為にマグナデウス、貴様に決闘を申し込む!」  「べらぼうめ。受けてやるよ! 他所様の星に侵略に来て格好つけんな!」  「野蛮人め、勝負だ!」  敵ながら正々堂々としたタニアンと決闘が始まる。  「我が炎の刃を受けて見よ!」  サーベルの刀身に炎を灯して斬りかかるタニアン。  「お嬢、頼んだ!」  「お任せあれ♪ ロコモストリ~~ム♪」  「ぐわ~~っ! おのれ、ちょこざいな!」  マグナギガスが右手甲の汽車の煙突から放水攻撃で迎え撃つ!  水圧が相手の剣戟を押し返し、敵の動きが止まった。  「ボディが開いたぜ、カナメ♪」  「オッケ♪ ウィングスピン!」  マグナデウスが回転し、左腕のアームブレードによる手刀で斬り付ける!  激しい衝撃音が響き、火花が散る!  タニアンはマグナデウスの攻撃をサーベルで受けるが、刃を折られ胴が斬られた!  「ぐはっ! やるなマグナデウス!」  「金さん、こっちのエネルギーが切れそう!」  「マジか! ならなおさら退かねえ、全力大火球マグナフランマ!」  マグナデウスの頭部から巨大な火の玉が生まれ、敵に向かい発射される。  喧嘩ショットに近い至近距離でぶっぱなしたマグナデウスの必殺技。  それは逃れられぬ地獄の業火となって挑戦者を飲み込み、存在を消し去った。
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