第1話 マグナデウスチーム、北へ

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第1話 マグナデウスチーム、北へ

 「ここが北海道か♪ 蟹が食いたくなるな♪」  七月の晴天の空の下、新千歳の空港から出て来たのは眼鏡をかけた真面目そうな顔付きのスーツ姿の男性に引率された学生の一団。  その一人、短い金髪に精悍で整ってはいるが釣り目気味で爬虫類を思わせる顔つきをした鍛えらえた体格を黒い学ランで包んだ少年。  彼の名は黄・金馬(こう・きんま)、日中混血の龍神だ。  「北海道、美味しい食べ物多いしね♪」  金馬に同意するのは、眼鏡をかけた短い黒髪の美少年こと明日野カナメ。 「金馬さん、蟹を見ると目付きが普段よりも凶悪に変わりますね?」 「蟹は美味いからな、シャルルも家で蟹をあれこれ食ったろ?」  金馬に語りかけたのは、金髪に人工的な白い肌のロボ人間のシャルル。  「金さん、戦う時と蟹を食べる時はガチで怖いで~す!」  小柄なセーラー服の金髪ツインテール少女のドロシーがたじろぐ。  「マグナデウスでカニ漁でもいたします? 漁業権は組合ごと買えば良くって?」  ブルジョアなボケをかますのは真紅の髪を縦ロールにした美少女のメープル。  「いや、ボケは良いから開会式の会場へ行こう?」  背の高いキノコ頭の少年、森山マッシュが仲間達にツッコむ。  「森山君の言う通りだぞ、はしゃぐのは良いがまずはやるべきことをやろう」  眼鏡をかけた黒スーツに整った七三分けの美青年、飯盛先生が生徒達を窘める。  彼ら、山梨県立ヒーロー高等学校ロボットファイト部は遊びに来たわけではない。  北海道で行われる。ロボットファイトの全国大会に出場しに来たのであった。  金馬達の他にも、参加校のチームらしい学生の一団が周囲にはいて送迎のバスに乗り出していた。  「で、俺らのバスはあれだな?」  「すごくわかりやすい、ドラゴンですね♪」  「ゆるきゃらの金の龍が描かれてま~す♪」  「私達、ロンスターのユースでもありますしね」  「手広すぎない、ロンスターグループ?」  「ぐぐったら、観光事業にも手を伸ばしてた」  「皆、ありがたく使わせてもらうぞ」  金馬達は、黄色い制服を着た女性添乗員さんが手招きするマイクロバスを見る。  自分達の学校の名前が入った幕が付き、ゆるくデフォルメされた金色の龍が描かれた真紅のマイクロバスに乗りこんだ。  「は~い♪ 皆様初めまして、この度はロンスタートラベルをご利用いただきありがとうございま~す♪ 私、添乗員の寒川あかりと申します♪」  「「よろしくおねがいしま~す♪」」  金馬達も挨拶を返す。  ヒーローショーの司会のようなあかりさんに、寡黙で誠実そうな運転手の諏訪部さんのお世話になり東千歳地区の大演習場へ向かう金馬達。  バスを降りて開会式に参加する金馬達。  演習場に用意された特設ステージに集い、昨年優勝校の優勝旗の返還などを経てから各校の代表による一回戦の対戦相手の組み分けが始まった。  「何処が相手でも構わねえ、ベストを尽くすのみ!」  壇上に上がった金馬が抽選箱に手を入れて掴み取ったのは黄色のボール。  同じ色を掴んだのは、茶色のブレザーを着たピンク髪の美少女だった。  金馬達の一回戦の対戦相手は、神奈川の代表ワルプルギス魔法女学院に決まった。  対戦相手の代表は、金馬の顔を見て泣き出しそうな顔になり立ち去った。  「俺、そんなに怖いのかな?」  相手が魔女で、自分の正体を見ていたとは気づかない金馬も壇上から降りる。  対戦相手が決まれば開会式は終了、明日からの試合に備えて宿に向かった。  「すまないな皆、学校からは航空券代しか出せなくて」  バスの中で金馬達に詫びる飯盛先生。  「いや、そこは新設の部だし俺の実家が面倒見てくれるから」  「そうそう、マグナデウスでの怪獣退治も中学から自主的にしてましたし」  「先生達は悪くないで~す♪」  「先生こそ、お疲れ様です」  「財力の事はお任せあれですわ♪」  「先生は引率できてくれただけでもありがたいです」  金馬達の方こそ申し訳なさそうに告げる。  先生だって、他の仕事もあるのにプライベートでの夏休みを楽しみたいはずだ。  生徒と先生が互いの事を想いつつバスは宿に着く、バスを降りた金馬達が宿を見た印象は地味の一言であった。  「ほう、無駄な装飾がなくてマンションのように入り易い感じだな♪」  「ああ、思い出した♪ ここ、祖母ちゃんの別荘だ!」  「はい、五階は全てオーナーの別荘となっております♪」  先生は、値段が安そうで入り易い外観に喜ぶ。  金馬は、既視感から記憶に辿り着けばあかりさんが補足した。  茶色いレンガ造りの四角い五階建てのビル。  一階は、エントランスと駐車スペースとマンションのような宿であった。  「いらっしゃいませ、ロンスターホテルへようこそ♪」  自動ドアが開けばあかりさんと同じ制服の受付嬢と、黒い執事服を着た黒髪の色白な青年男性が出迎えてくれた。  「山梨県立ヒーロー高等学校ロボットファイト部御一行様ですね、ご到着をお待ちしておりました♪ 私、コンシェルジュの鯛腹(たいはら)と申します♪」  鯛原さんが挨拶をしたので金馬達も礼をする、金馬には鯛原さんの正体が鯛の妖怪であると彼の背後に見えたオーラから気付いた。  案の定、金馬達は五階のオーナールームに案内されると金髪縦ロールの美女が黄色のカンフー着姿で出迎えた。  「いらっしゃい、皆♪ お初の方はいないわね、ジンファです♪」  金馬の母方の祖母であり、マグナデウスチームにとっては所属する組織のトップであるジンファであった。  「ささ♪ カモナマイハウス♪ 試合前だから寛いで♪」  ジンファが金馬達を洋風な部屋へと招き入れる。  「一応、ただいまって言えば良いのかな?」  「ですね、金馬さん」  お世話になりますと言って、フロアに入る仲間達。  オーナーの孫の金馬と、世話になっているシャルルはちょっと戸惑った。  「他人行儀な顔して立ってないで、入りなさい♪」  ジンファが尻尾を生やして金馬とシャルルを巻き取り、中に入れた。  「泊まれる個室は結構あるんですね、ジンファさん?」  「ええ、空いている部屋を委員長君達で好きに使って♪」  「ご厚意に感謝いたします」  金馬とシャルルを脇に抱えソファーに座るジンファ。  テーブルを挟んで反対側のソファーに座る飯盛先生と語り合う。  飯盛先生は金馬の父とは同級生で、ジンファとも面識があった。  「オ~ウ♪ 何気に部屋が風水建築で~す♪」  個室に荷物を置いて来たドロシーが、リビングや飾り付けの配置が風水思想に沿って置かれている事に気付く。  「いや、何か金色のオーラが見えるんですけど?」  「うん、凄い陽の気が満ちてる」  「素敵なお部屋ですわ~♪」  カナメやマッシュにメープルも集う。  「サンキュ~キッズ♪ 皆で楽しく過ごしましょう♪」  ジンファがイエ~イとパリピな言動をする。  「何でしょう、僕達だけ旅行なノリなんですけど?」  「シャルル、祖母ちゃんの厚意に甘えるのが吉だ♪」  「そうそう♪ 戦士たるもの、戦いの前に英気を養うのよ♪」  「改めて、ご厚意に甘えさせていただきます」  「学生時代から変わらない委員長君の真面目な姿勢、良いわ♪」  ジンファのテンションが上がる。  ある意味、自分達の陣営の基地とも言える宿を得たマグナデウスチーム。  「それじゃあ、キッズ達♪ ガツンと料理作るから手伝って♪」  ジンファが笑顔で立ち上がる。  「おっしゃ、任せろ♪」  「お手伝いいたしますわ♪」  「どんなメニューを作るのか楽しみで~す♪」  「何か、凄いものが出そう」  「俺、あの人がデカい鍋を振ってたところ見た事がある」  「ジンファさん、お料理上手なんですよね♪」  金馬と仲間達もジンファを手伝い、ジンギスカン鍋で英気を養った。
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