幼馴染の嘘

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試しに付き合ってみてもいいかと思ったこともある。 案外付き合いだしたら本当に好きになるかもしれない。好きにならなくても、気持ちが変わるかもしれない。 そう思ったけれど、現在進行形で辛い片思いをしている僕は、その子たちの気持ちを軽く受け止めることが出来なかった。苦しい気持ちも、告白するのにどれほどの勇気がいるのかも分かっていたから。だから僕は毎回正直に頭を下げて彼女たちの気持ちを断った。 そんな僕とは対称的に、幼馴染のその人は彼女を切らしたことは無かった。来るものは拒まず、と言っていいほど告白を断らなかったのだ。好きだからなのかと思ったけれど、付き合ってみないと分からないから、だって。本当に僕とは真逆の考えだ。それでもいつも円満に別れ、その後も友達として付き合っていけてるのだから、きっと誠実な付き合いをしているのだろう。 でもその話を聞く度に、『僕が告白しても断らないのだろうか』という思いに駆られた。 もしかしたら、僕とも付き合ってくれるかもしれない。 そう思いながらも、その人が付き合う人がみんなオメガの女の子だという現実に、僕は告白に踏み切れないでいた。 いや、告白する気などないのだ。だって告白してしまったら、僕達の関係は変わってしまう。僕は、幼馴染で誰より分かりあっている関係が壊れてしまうことが怖かった。だから決して、この思いを打ち明けることは無い。 そう思っていても、その人が彼女と別れる度に考えてしまうのだ。もしかしたら・・・と。でもそれも疲れてしまった。何度そう思っても、結局最後は関係を壊したくないからと、その人への思いを押し殺してしまうのだから。 ならばいっそ、遠くに行こう。 容易に会うことも出来ないくらい遠くに行って、自分のことを誰も知らない新しい場所で気持ちを切り替えよう。そしてこの思いを、今度こそ断ち切るんだ。 そう思って関東の大学を志望することにしたのだけど、それを幼馴染には言わなかった。だって言ったら、なんでそうしたのかを説明しなければならないし、万が一自分も関東にすると言い出したら困るから。せっかく離れる決意をしたのに、ついてこられたら意味が無い。だから僕は表面的には関西の大学を第1志望とし、関東の大学を志望していることは一切誰にも言わなかった。 それでもまだまだ3年になったばかり。決定事項では無い。これから受験勉強をしつつ、ゆっくり決めていけばいい。そう思っていたけれど、そうしていられないことが起こってしまった。 それは、もうすぐ梅雨に入るかと思われていた6月のある日。日中の気温が夏日に達し、かと思えば平年を下回る寒さになるなど、寒暖差か激しい日が続いた時だった。その温度差に体調が崩れたのか、僕は一週間前から微熱が続き学校を休んでいた。けれどそれを幼馴染に言ったら心配して来てしまう。ただでさえ調子が悪いというのに本人に来られたら、僕は普通にしていられる自信がなかった。だからその日も普通に学校に行ってると嘘をついていたのだ。 両親が仕事に行ってすぐの事だった。突然隣からものすごい音がした。まるで何かがひっくり返ったようなその音に、微熱で横になっていた僕は驚いて目を開けた。 確かに大きな音が隣から聞こえた。だけど今、隣は誰もいないはず。おじさんもおばさんも仕事に行ってるし、幼馴染も学校に行ってるはずだ。 泥棒? ドキドキした。 もし本当に泥棒だったなら、通報しなければならない。でももし家の誰かがいたとしたら? 僕はとりあえず幼馴染にメッセージを送った。きっとまだ通学途中だけど、いつも返信してくれる。そう思ったけれど、僕の送ったメッセージには既読はつかず、もちろん返信もない。 彼女と話してて気づかない? それとも実は、あっちも体調を崩して休んでいるのだろうか?だとしたらすごい音がしたし、何かあったのかも・・・。 そう思ったらすごく心配になって、僕は隣に向かった。 とりあえずインターフォンを押す。けれど応答はなかった。 まさか本当に泥棒?
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