幼馴染の嘘

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航平が言ってたあの人って、東雲先生だよね?たしかに先生と結婚するって決めたから両親に報告しに来たんだけど、なんでそれが今頃問題になるんだろう。だって先生とは契約(偽装)結婚だったから思いあってる航平と結婚するってなったのに、なんでまた話が振り出しに・・・? 「どうして希のことを考えたら先生の方がいいの?」 経済的なこと? それとも経験から来る人としての器? でも航平だって優秀なアルファだし、ちゃんと歳を重ねて経験を積んだら、先生に負けないくらいの大人になると思うけど・・・。 いまいち意味がよく分からず、さっきの胸の痛みも忘れ、僕は色々考える。 やっぱり経済的なことを言ってるのかな?航平はまだ学生だし、就職したとしても新卒の会社員と経験豊かな医師じゃ、そりゃかなりの差は出来るけど、そんなこと僕は気にしないし・・・て、希のため?お金がある方がより質の高い環境を用意してあげられるから?だから希のことを考えたら、て? そんなことをつらつら考えていたら業を煮やしたのか、航平が顔を上げた。 「子供にとったら本当の父親の方がいいだろっ」 がばっと身を起こしてそう叫ぶから、僕はまたぽかんとなった。 本当の父親? 「誰が?」 「あの人!」 あの人・・・先生? 「・・・・・・・・・え?」 希の父親が先生? なんで? 航平の中で、なぜ希の父親が先生になったのかは分からないけど、妊娠期間とか子供の歳って当事者()は細かく覚えてるけど、それ以外の人はあんまり深く考えたりしない。大体子育て中でもなければ、小さい子の歳って意外とよく分からないものだ。それに僕はきっちり時系列を詳しく話していなかったから、もしかしたら航平は理解出来ていないのかもしれない。 「航平。あのさ、とりあえず僕の話を聞いてよ」 ここは一旦落ち着いて詳しく話をした方がいいと思ったのだけど、航平は聞く耳を持たず首を横に振る。 「いや、まずは返事をくれ」 返事って・・・その返事をするために話したいのに・・・。 「その前に僕の話」 「いや、返事」 ・・・だからそのために話が必要なのに、なんでこんなに頑固なんだ。 「航平。話が先」 ちょっと感じたイラつきが思いのほか声に現れてしまい、低い声になってしまった。それが効いたのか、航平の顔が強ばる。 「わ・・・かった」 これまでほとんど怒ったことがない僕が3年前の最後の電話からわりと怒っているからか、航平は僕の怒りに敏感だ。でも今はそんなに怒ってないのに、この反応。もうあんまり怒らないようにしよう。 「じゃあ、話すね」 僕は改めてそう言って、まだ話していない僕のことを話し始めた。 謎の微熱の後も体調不良は治らず、けれど病院へ行くほどではなかったこと。だけど一向に治らない体調に叶わない航平への思いと受験のストレスだと思っていた事。そしてついに倒れてしまったこと。 ずっと神妙な面持ちで聞いていた航平が、僕が倒れたという言葉に心配顔になる。 「大したことは無かったんだ。立ちくらみがして立てなくなっちゃって、心配したクラスメートに医務室に連れて行かれたんだけど、そこで東雲先生に初めて会ったんだ。それで先生がすぐに病院へ行こうって」 あの時はなんで病院にまで行かなきゃいけないか分からなかった。 「そこで分かったんだよ。僕がオメガだって」 僕は稀に第二性の発現が遅れて診断に引っかからず、後になって第二性が分かる事例があることを話し、僕もそれでベータと診断されたことを言った。 「だけどそういう場合は第二性が弱いらしくって、アルファだと偶然血液検査で分かったりする以外はそのまま知らずにベータとして過ごす人も多いんだって。だけどオメガの場合は発情期があるだろ?だからそれで分かることが多いらしいんだ。でもその発情期もかなり弱くて軽い風邪程度で終わることもあって、気づくのに時間がかかってしまう。僕の場合は謎の微熱だったんだ」 その言葉に航平の眉がぴくりと動く。 「あの時は僕、原因不明の微熱が続いていて学校を休んでたんだ。それで航平との事故があって・・・。だけどまさか自分がオメガだなんて知らないからさ、アフターピルを飲まなきゃいけなかったなんて微塵も考えなかったんだ」
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