幼馴染の嘘

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「なのに俺の子だって。そんなのうれしい以外ないだろ?いいんだよな?俺がなって。真希と結婚して、あの子の父親だって言っていいんだよな?」 うれしそうにそう言う航平に、僕は頷いた。 「僕からも航平に言いたい。僕と結婚して、希の父親になって」 「もちろん」 一も二もなくそう言う航平に、僕の視界が滲む。 本当にこんな日が来るなんて、想像もしていなかった。自分の思いも希の本当の父親も、言うことは決してないと思ってた。ずっと隠して嘘をつきながら生きていかなければならないと思ってた。なのに、こんなハッピーエンドが急に訪れるなんて。 全く予想もしてなかった結末に幸せを噛み締めていると、不意に航平が僕のうなじに触れた。 「これさ・・・このテープ、剥がしていい?」 うなじから下りた航平の手が、抑制テープに触れる。 「いいよ。もう隠す必要ないから。でも剥がしても大したことないよ?さっきも言ったけど、発現が遅れたオメガはそのフェロモンも弱くて、普段でもそんなに出てないんだ」 僕がそれでもテープを貼ってたのは、航平のようなアルファに気づかれないため。これを貼るとフェロモンを完全に抑えられるから。 「そう?でも真希のうなじ、すごくいいの匂いがするよ」 航平の言葉にそんなはずは無いと思ったけど、そういえばさっきもそんなこと言っていた。 テープを貼っていてもフェロモンが漏れてしまう時がある。それは発情期のときだ。この時期はさすがにテープだけじゃ抑えられなくてオメガが普段服用している抑制剤を飲むけれど、僕の場合それを飲むと完全にと言っていいほど発情を抑えられ、日常を普通に送ることが出来る。だから今まで発情期だからと言って部屋に籠ることも無くずっと希と一緒にいられたんだけど・・・。 あれ?今僕からフェロモン出てるの? そう言えばずっと身体が火照ってて、心拍も早い。でもそれは、航平と心穏やかではいられない話をしていたからで、まさか発情じゃ・・・。 そんなことを考えている間に、航平がテープを剥がしてしまった。すると一気に火照っていた身体の熱が上がる。 うそ・・・なにこれ・・・。 オメガであると分かってからお腹には希がいて、生んでからもずっとテープを欠かさず貼っていた僕は、発情期に抑制剤がない状況を体験したことがない。だからこの、一気に身体が欲情する感覚がなんなのか分からないけど・・・。 まさか本当に発情・・・? 最弱オメガの僕の発情期はかなり不安定だ。だからいつ発情するかなんて分からなくて、毎朝先生にフェロモンチェックをしてもらっているけど、今朝は大丈夫だったはず。 なのに・・・。 上がる心拍数に早い呼吸。それにお腹の奥がきゅうっとなる。 性欲とは本当に無縁に生きてきた。 オメガになる前も後も、そういう衝動に駆られたことなんてなかったから、こんなに身体が熱くなるなんて知らなかった。 それに・・・。 本当に濡れるんだ。 後ろから何かが溢れ出る感覚とぬるりとした感触が、まるで何かを漏らしてしまったかように恥ずかしいけれど、それを上回る焦燥感が僕を支配する。 これが本当の発情期・・・。 このまま身を任せても・・・いいのかな・・・? 僕を包む航平の身体はどんどんその熱を上げ、僕のうなじにかかる息も熱くなる。その熱に煽られるように僕の心臓もありえないくらい早鐘を打ち、お腹の奥の疼きが強くなる。・・・とその時、航平の腕の力がぐっと強まった。 その瞬間あの時の記憶がよみがえる。 もしかして僕の発情(ヒート)フェロモンで航平が発情(ラット)した・・・?! ケダモノの航平も怖くない。だけどそうなってしまったら、航平がまた悩んでしまうかもしれない。 そう思って焦り始めた僕の耳に、うなじに鼻を埋めたままの航平の声が聞こえた。 「真希の匂いだ」 そう言ってさらに鼻を押し付けるようにそこの匂いを嗅ぐ航平に、僕は密かにほっとした。 ・・・大丈夫みたい。 僕の最弱オメガ性は、発情期でもそれほど強くなかったらしい。それが良かったのか悪かったのか・・・いや、僕自身ベータと変わらない生活希望なのでそれでいいのだけど、なんだろう、ちょっともやもやする。そんなことを思っていると、航平が小さく笑った。
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