1957人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・それ・・・に・・・怖くなかったよ・・・」
言ったでしょ?
大丈夫だって。
「僕・・・も・・・止められ・・・なかっ・・・た・・・」
僕の中のケダモノ。
「航・・・平・・・怖か・・・た・・・?」
そこで僕の意識は途切れた。
疲れ切った身体が限界を迎えたのだ。それに身体の中を航平の力がすごい勢いで駆け巡って、僕の全てを支配しようとしている。だからそれまで、僕は眠らなきゃ。僕の全てが変わるまで。だから待ってて・・・ほんの少しの間眠らせて・・・。
そうして落ちていく意識の最後に、航平の声が聞こえた気がした。
「・・・ありがとう。お前はすごく可愛かったよ」
僕は可愛くないよ。
そう思いながらも、航平から流れてくる思いが温かいものに変わったのが分かって、僕はほっとした。
それからどれくらい寝ていたのか、目が覚めると僕は温かい何かに包まれていた。そしてそれが航平の腕の中だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
嘘っ・・・僕・・・航平と・・・っっ。
蘇る記憶の数々。
全部覚えてる。
何という痴態。
これが世に言う賢者タイムか・・・。
僕、自分から誘ったよね。しかもあんなはしたないっ・・・。
顔が火が噴くほど熱くなる。そしてそのあまりの恥ずかしさにじっと出来なくて足をバタバタさせてると、それを航平の足で挟まれる。
「・・・こら、暴れるなよ」
起こしてしまったのか、それとも初めから起きていたのか。部屋はまだまだ明るいから、それ程時間が経った訳ではなさそうだけど、僕はどれくらい航平に抱きしめられていたのか。
事後って、どんな顔をすればいいんだよっ。
足も身体も航平にがっちりホールドされて動けない。だからせめて顔だけは隠したいと航平の胸に押し当てた。でもそこは素肌の胸で、気付けば僕たちはまだ裸のままだった。
「真希、顔見せて」
バクバクなる心臓に熱い顔。
見せるって、こんな顔を?
とても見せられないとさらに顔を埋めると、その頭に航平があごを乗せた。そして仕方がないとばかりに小さくため息をつく。
「ならそのままでいいから、聞いて。」
そう言ってそのまま航平が話し出す。
「俺の中のケダモノがまた暴れ出して、止められなかった。俺の理性は飛んで、ただ欲望に突き動かされるまま真希をまた力ずくで抱いてしまった。本当は優しくしたかったんだ。痛くないように、たくさん気持ち良くなって欲しかった。だけど・・・できなかった」
その声が少し震えていて、僕の心も切なくなる。だから僕は手を伸ばして、航平の背中に回した。
眠る前も航平は怯えていた。だから僕は大丈夫だって伝えたけど、本当は夢の中だったのかもしれない。だから僕はもう一度言う。今度はしっかりと。
「航平の中のケダモノ。僕は怖くない」
そう言って抱きしめた腕に力を入れた。
「どんな航平も怖くない。それに力ずくって言ったって、それは全部僕も望んだことだから。僕もそうして欲しかったことだから。だから航平が気にすることない。それに痛くなかった。・・・気持ち良かったよ」
こんなこと言うなんて、本当はすごく恥ずかしい。でも僕達はお互い気持ちを隠したからこんなにも拗れて長い時間がかかってしまったんだ。だからどんなことでも隠したくない。
「僕は大丈夫だけど、航平は?航平は僕のこと・・・嫌にならなかった・・・?」
あんな淫らではしたない。
僕があんなになるなんてっ。
今まで性欲なんてほとんどなかったのに・・・っ。
航平が言うケダモノがアルファの本能なら、きっとあれはオメガの本能なのだろう。それは分かるけど、そのあまりのはしたなさに、僕は僕で引いてしまう。
「嫌?なんで?」
僕が恥ずかしさで身悶えていると言うのに、航平はあごを乗せたまま僕の背中をさする。その感触がゾクゾクと背中を駆け上がる。
「・・・んっ・・・ぁだって僕すごくはしたなくて、あんな・・・引く・・・」
なおも撫で続ける航平に、僕の言葉が跳ねる。
「引く?なんで?すごくエロくて可愛かったよ。真希が可愛すぎて俺の中のケダモノが暴れだしちゃったんだ。抑えられなくてごめん」
そう茶化して言うけど、本当は落ち込んでるのが分かる。
最初のコメントを投稿しよう!